野良猫の管理について再考する その17

HurleyとLevy (2022)※の“Rethinking the Animal Shelter’s Role in Free-Roaming Cat Management”(野良猫の管理におけるアニマルシェルターの役割を再考する)という論文で述べられている、シェルターが関与する(shelter-based)野良猫の管理手法の三つ目は、野良猫をそのままにしておく(leaving cats in place)というものです。

 

野良猫をそのままにしておくメリット

シェルターが「野良猫をそのままにしておく」ことのメリットについて、論文は「シェルター運営への影響」「譲渡の推進」「生態系への影響」「返還の推進」をあげています。

 

シェルター運営への影響

シェルターは地域社会において、さまざまな役割を果たしています。病気やけがをした動物の収容やケア、虐待やネグレクトの被害動物の保護、飼い主が世話をできなくなったペットの譲渡などはもちろん、災害やその他の緊急事態への対応や各種飼い主支援、公衆衛生や安全保護などもシェルターの重要な役割です。健康な野良猫をむやみに受け入れることによるシェルターの過剰収容が解消されれば、シェルターはこれらの重要な業務をよりよく実行できます。

 

譲渡の推進

シェルターが過密状態でなければ、飼い主がペットを飼い続けるためのサービスを提供することができ、結果的にシェルターに収容されるペットの数を減らすことができます。たとえペットを引取らざるを得ない場合であっても、その数が少なければスタッフやボランティアによって高いレベルのケアやエンリッチメントを提供することが可能で、それは譲渡の推進に直結します。譲渡の推進そのものも良いことですが、安楽殺されるペットの数が減ることによりシェルターの社会的信用が向上するという効果も見逃せません。シェルターが信用されることにより、飼い猫を飼いきれなくなった飼い主は、遺棄することなくシェルターに持ち込むことを選択するでしょう。

 

生態系への影響 

直観的には信じられないでしょうが、野良猫をそのままにすることは、その場しのぎの収容の真逆の効果をもたらすと論文はいいます。つまり野良猫の環境からの除去によって発生する「構成年齢の幼若化」や「新規野良猫の流入」を伴う野良猫の個体数増加を防止することができます。

またその場しのぎの収容ではなく、TNRやSNRなどにより野良猫に避妊去勢手術を実施し、可能な限り持続的に野良猫の個体数を減らす代替案を実施することにより、健康な成猫の野良猫のほとんどを地域密着型のサービスに回すことができ、収容にかかる費用を最小限に抑えることができます。それは野良猫の個体数減少にとどまらず、各個体がもたらす迷惑行為や公衆衛生上のリスクなどもより効果的に減らすことができます。

 

※ Frontiers in Veterinary Science | www.frontiersin.org March 2022 | Volume 9 | Article 847081