HurleyとLevy (2022)※の“Rethinking the Animal Shelter’s Role in Free-Roaming Cat Management”(野良猫の管理におけるアニマルシェルターの役割を再考する)という論文で述べられている、シェルターが関与する(shelter-based)野良猫の管理手法の三つ目は、野良猫をそのままにしておく(leaving cats in place)というものです。
野良猫をそのままにしておくメリット ※続き
飼い主への返還の推進
シェルターが「野良猫をそのままにしておく」ことのメリットのひとつについて、論文は「飼い猫の返還の推進」をあげています。迷子のペットを飼い主に返還することはシェルターの重要な業務のひとつです。野良猫と迷子の飼い猫は、多くの場合見た目では見分けがつきません。そのため、野外で発見された猫については「飼い猫かもしれない」という意識が求められます。
迷い猫を収容しない方が返還率が高い?
私たちは「迷子の猫は保護して飼い主を探せばよい」と直感的に考えがちです。しかし健康な猫をそのままにしておく(または見つけた場所に戻す)ことは、返還のためのさらに優れた手段である可能性があります。米国における複数の研究により、迷い猫がシェルターから飼い主に返還されるよりも、自力で家に戻る、もしくは近所で飼い主に発見される方が、返還率が10~50倍高いと報告されています。実際、米国のシェルターにおける猫の返還率は約2%といわれています。
猫の返還率が低い理由
米国において、迷い猫の返還率は迷い犬のそれと比べはるかに低率です(日本も同じです)。その原因は「猫が迷子になる時期」と「飼い主が猫を探す時期」、そして「猫がシェルターに収容されている時期」のミスマッチによると論文はいいます。
日本もそうですが、米国においても猫の屋内飼育はまだまだ完全に普及しておらず、外飼いや出入り自由の飼い方をしていることはさほど珍しいことではありません。外に出ていった猫が数日帰ってこないこともままあるため、飼い主も「そのうち戻ってくるだろう」とのんびり構えていることが多いのです。さすがに1週間以上経過すると、飼い主も「大変だ」ということで猫の捜索を開始します。もしその猫がシェルターに収容されていたとしたら、探し始めた頃には公示期間が満了している(つまり何らかの「処分」が行われている)かもしれません。
一方猫の立場で考えてみると、飼い猫が「迷子」になるパターンの多くは、捕獲器に入ってしまったか、怯えてどこかに隠れているか、あるいは最も一般的なのは、単に外で遊んでいただけなのに、悪気のない「善意の人」(Good Samaritan)が良かれと思いシェルターに連れて行ったというものです。このように、猫が「迷子」になってからシェルターに持ち込まれるまでの間に数日~数週間のタイムラグが生じる可能性があります。(続く)
※ Frontiers in Veterinary Science | www.frontiersin.org March 2022 | Volume 9 | Article 847081