米国のShelter Animals Count(SAC)が運用しているアニマルシェルター統計データベースの、Intake & Outcome Database (IOD)※について解説していますが、実は微妙な案件が2つあります。それは「RTFとTNR」、そして「飼い主意図の安楽殺」です。
IODとCSD
IODは文字通り、シェルター等の動物の「受入れ」と「結果」に関するデータベースです。シェルター等が動物を受入れることなくサービスのみを提供した場合、またはシェルター等が全く関与しない動物保護活動は対象外です。ただこのような地域奉仕活動についても何らかの統計が必要だろうということで、SACはCommunity Services Database (CSD)のベータ版を2021年から運用しています。IODとCSDの違いは、シェルター等への動物の受入れ(Intake)の有無です。
RTFとTNR
Return-to-Field (RTF) 事業は、住民や動物管理担当者によってシェルター等に持ち込まれた野良猫をいったん収容し、避妊去勢手術を施した後に保護場所に戻す事業です。ですので、RTFはIODのデータとして計上されます。Trap-Neuter-Return (TNR)活動も、捕獲した野良猫に避妊去勢手術を施し捕獲場所に戻すという点においては同様ですが、シェルター等への受入れを伴わないため、IODのデータとしては計上されず、CSDのデータとして計上されます。
飼い主意図の安楽殺
さらにややこしいのが「飼い主意図の安楽殺」(OIE:Owner Intended Euthanasia)です。本当にややこしいので、興味のない方は読み飛ばしていただいても結構です。
米国のシェルターの中には、動物の安楽殺サービスを提供しているところがあります。シェルターは安楽殺の高いスキルを有しているという理由もありますが、安楽殺を動物病院で実施するには高額の医療費がかかるという切実な理由もあります。だからといって、身体的な理由や行動上の理由で安楽殺が必要と判断された動物を放置することは動物福祉上許されません。そのためシェルターがサービスを提供しているわけです。
シェルターへの受入れを伴わずサービスのみを提供する場合、当然ながらIODには計上されず、「地域奉仕活動」としてCSDに計上されます。しかしシェルターがそのペットを受入れてOIEを実施する場合にはIODに計上されます。しかしSACがデータを集計し公開する際には、どちらもCSDとして計上され、IODの公開データにはOIEの項目がありません。SACが2022年に、「実態を踏まえて」OIEをCSDの項目として集計すると決めたからです。それはOIEのためにシェルターがペットを受入れたとしても、それはシェルターによる所有を目的としない形式的なものにすぎないからだと私は理解しています。
※https://www.shelteranimalscount.org/wp-content/uploads/2022/07/SAC_IntakeandOutcomeDatabase_IOD_070522.pdf