日本においても、犬や猫の避妊去勢手術に特化した動物病院、いわゆる「スペイクリニック」が増えてきています。ここでは、Levyら(2017)の“Perioperative mortality in cats and dogs undergoing spay or castration at a high-volume clinic” ※を参考に、米国におけるスペイクリニックの発展とその安全性について考えていきたいと思います。
そもそも「スペイクリニック」とは
「スペイクリニック」とは、主に犬や猫の避妊去勢手術に特化し、低廉でサービスを提供する動物病院もしくは獣医療チームを指します。ちなみに英語で言うと“spay–neuter clinic”または“spay–castration clinic”なので、正確には「スペイニュータークリニック」または「スペイカストレーションクリニック」と言うべきなのでしょうが、ここでは日本で通常用いられている「スペイクリニック」という語を用いて話を進めていきます。
「スペイクリニック」の社会的要請
米国では年間600万~800万頭の犬や猫がアニマルシェルターに収容されています。その中にはいわゆる野良犬・野良猫や、「不要」とされたペットなどが含まれます。その管理費用は年間20億~30億ドルといわれ、その費用は税金や寄付金で賄われています。そして年間300万頭の犬や猫がシェルターで安楽殺されています。そのうち80%が安楽殺の必要がなかった健康な個体であったとされています。犬や猫の不要な安楽殺を防ぐためには、シェルターに収容される動物の数を減らす必要があります。そのためには、避妊去勢手術によって犬や猫の過剰繁殖を防ぐことが急務であるといえます。
避妊去勢手術の「パラドックス」
ペットの避妊去勢手術は、昔と比べて普及しているように見えます。全米における調査によると、飼い犬の約80%、飼い猫の約90%が避妊去勢手術済みであると推定されています。しかし実際にシェルターが受入れた犬や猫のうち、避妊去勢手術済みの個体は約10%にすぎません。
避妊去勢手術の障壁
全米における調査は、十分な獣医療サービスがを受けられていないと推定される2,300万頭のペットについて過小評価されているとの指摘があります。それらのペットに限れば、避妊去勢手術の実施率は約13%にすぎず、そもそも獣医師による診療を受けているペットが約23%しかいないという報告もあります。避妊去勢手術にかかる費用は、特に低所得者層にとって大きな障壁となっているといえます。またいわゆる野良犬や野良猫に至っては、そもそも避妊去勢手術の機会がありません。犬や猫の過剰繁殖による諸問題を防止するため、こういった動物に対しても避妊去勢手術サービスを提供する必要があるわけです。
※https://doi.org/10.1016/j.tvjl.2017.05.013