スペイクリニックの安全性について考える(3)スペイクリニックの安全性

犬や猫の避妊去勢手術に特化したいわゆる「スペイクリニック」の安全性について、Levyら(2017)の“Perioperative mortality in cats and dogs undergoing spay or castration at a high-volume clinic” ※を参考に見ていきましょう。

 

研究の概要

この研究の目的は、米国で多数の避妊去勢手術を行うスペイクリニックにおける、犬猫の周術期死亡率を算定することです。スペイクリニックで実施される避妊去勢手術は「早くて安い」ため、その質について懸念が生じていることは前述のとおりです。そこで、フロリダ州のタンパベイ人道協会が運営するスペイクリニックにおいて、電子カルテや死亡記録を参考に、2010年から2016年にかけて当該クリニックで避妊去勢手術を受けた猫71,557頭および犬42,349頭のデータを集計し、周術期死亡率を算定しました。このクリニックはASV(シェルター獣医師会)のガイドラインに基づきHQHVSN(高品質大量避妊去勢手術)を実施しています。なお「周術期死亡」は「最初の鎮静剤または麻酔薬の投与から24時間以内に発生した死亡」と定義されました。

 

結果

「周術期死亡」と認められたのは、猫34頭、犬4頭でした。つまり周術期死亡率は猫で0.05%、犬で0.009%ということになります。結果を簡単にまとめると、

 

・犬猫を合わせた周術期死亡率は0.03%

・メスの周術期死亡率は0.05%で、オス(0.02%)の2倍以上

・猫の周術期死亡率は0.05%で、犬(0.009%)の5倍以上

・当該クリニックの周術期死亡率は、以前に報告されている小規模クリニックと比べて低く、人間における同様の手術と同等である

 

考察

周術期死亡率の低さの要因について、論文はこう考察しています。

 

・手術対象の犬や猫が若くて健康であること

・特定の手術に特化したチームが経験を重ねることが、スキルの向上につながっている

・特定の手術を中断することなく繰り返すことが、ミスの減少につながっている

 

のらぬこの補足

HQHVSN(日本では「一斉手術」と呼ばれることが多いですが)で用いられる術式は低侵襲で手術時間も短く、また対象が健康な犬や猫であることから、周術期死亡率は低いだろうと思っていましたが、ここまでとは思いませんでした。しかしこのクリニックは7年間で10万件以上の手術を実施していて、そりゃ習熟もするわなというのが正直な感想です。もっとさまざまなスペイクリニックがこのような統計を公開すれば、スペイクリニックの信頼度が向上するのではないでしょうか。

 

※https://doi.org/10.1016/j.tvjl.2017.05.013