大きな災害が起きるたびに、ペットに関する諸問題が噴出します。避難所へのペットの受入れ、被災家屋に取り残されたペット、また逸走した放浪ペットなど…。そして放浪ペットが野外で繁殖するといった二次的な問題も発生しています。環境省は平成30年に「人とペットの災害対策ガイドライン」※(以下「ガイドライン」)を策定し、ペットに関わる平常時の災害対策および発災時の対応について示しているところです。そこには「ペットの平常時からの適正な飼養が、最も有効な災害対策」であると記載されています。その中にはしつけや所有者明示措置、健康管理などが含まれ、それぞれが大事なことではありますが、ここではその中でも、犬や猫の避妊去勢に着目したいと思います。犬や猫の避妊去勢手術が完全に実行されていれば、災害に伴うペットの問題の全てではないにしても、その多くが軽減されうると私は考えています。そこで「防災対策としての避妊去勢手術」について考えていきたいと思います。
自治体が災害時にペット対策を実施する理由
本題に入る前に、災害時のペット対策の基本理念について確認しておきましょう。自治体が災害時のペット対策に取り組む理由について、「ガイドライン」にはこう記述されています。
災害時に行うペットへの対策とは、飼い主が自らの責任の下、災害を乗り越えてペットを適切に飼養し続けることであり、自治体が行う対策の目的は、飼い主による災害時の適正飼養を支援することにある。同時に、災害という非常時にあっても、ペットをめぐるトラブルを最小化させ、動物に対して多様な価値観を有する人々が、共に災害を乗り越えられるように支援することである。(p1-2)
自治体は具体的に、次のようなことを行います。
適正飼養の支援
災害時に行政機関が担う役割は、一義的には被災者の救護である。このため、ペット対策には手が回らない事態になることも多い。行政機関が行う災害時のペット対策は、被災者を救護する観点から、災害時にも被災者がペットを適切に飼養管理できるように支援するものである。(p9)
ペットを連れた被災者が必要とする支援を自治体が担うことは、ペットの飼い主の早期自立を支援することであり、ペットの健康と安全の確保にも寄与する。同時にペットを飼養しない多くの被災者とのトラブルを最小化させ、全ての被災者の生活環境の保全を図ることになる。(p9)
放浪ペットの保護
また、被災地で飼い主とはぐれ、放浪しているペットを保護する必要も生じる。これはペットとはぐれた被災者の心のケアの観点から重要なだけでなく、放浪動物がもたらす被災地の生活環境の悪化を防止し、公衆衛生の確保にも寄与する。(p9)
ただし「ガイドライン」では、「放浪動物」を「災害により飼い主とはぐれるなど、何らかの理由で放浪状態となり、飼い主による飼養管理が受けられなくなったペット」と定義しています。「もともとその地域にいた野良犬や野良猫などは含まない」ことに注意が必要です。
※ https://www.env.go.jp/nature/dobutsu/aigo/2_data/pamph/h3002.html