前回に引き続き、犬や猫の避妊去勢手術が防災対策としても重要であることについて述べていきたいと思います。前回、自治体による災害時のペット対策について見ていきましたが、その目的はひとえに「放浪ペットの防止」です。
「放浪ペット」と「同行避難」
災害時にペットが飼い主からはぐれ「放浪ペット」になることには、大きく分けて2つのリスクがあります。それは「飼い主のメンタルのリスク」と「放浪ペットの野性化のリスク」です。ペットの放浪を防ぐために重要なのが、避難行動にペットを伴う「同行避難」です。「人とペットの災害対策ガイドライン」※(以下「ガイドライン」)には「同行避難」が必要な理由としてこう記載されています。
災害時には何よりも人命が優先されるが、近年、ペットは家族の一員であるという意識が一般的になりつつあることから、ペットと同行避難をすることは、動物愛護の観点のみならず、飼い主である被災者の心のケアの観点からも重要である。…(中略)…また、平成12年の三宅島噴火被害や平成23年の東日本大震災では、放浪状態のままに放置されて野犬化した犬が住民に危害をもたらす恐れや、不妊処置や去勢がされないまま放浪状態となった犬や猫が繁殖し、在来の生態系や野生生物に影響を与えるなどの恐れが生じたため、被災地に人員を派遣して、保護や繁殖制限措置を取らなければならない事態となった。
こうした事後の問題を軽減するためにも、災害時のペットとの同行避難を推進することは必要である。…(後略) (p11)
「同伴避難」時の適正飼養
「同行避難」はペットとともに安全な場所に避難する行為を指しますが、被災者が避難所でペットを飼養している(必ずしも同室とは限らない)状態を「同伴避難」といいます。「同伴避難」時には飼い主がペットを適切に飼養管理しないと、他の避難者や避難ペットとのトラブルの元になりかねませんし、公衆衛生上の問題も招きかねません。避難所によるペットの適正飼養は、避難所の生活環境保全上、非常に重要な位置を占めているといえます。
避妊去勢手術の大切さ
非常に前置きが長くなりましたが、平時に犬や猫の避妊去勢手術を実施しておけば、
・ペットが飼い主とはぐれても、野外での繁殖を防止できる
・同伴避難の際に、ペットの迷惑行動を軽減することができる
といったメリットがあります。簡単に書いていますが、もしこれが実現できれば、災害時のペット対策の負担がかなり軽減されます。ここはもっと押してよいポイントだと思いますが、「ガイドライン」にはさらりとしか記載されていないのが残念です。
…さらに、逸走時の繁殖を防止するために、不妊去勢措置を実施しておく。不妊去勢措置には、性的ストレスの軽減、感染症の予防、無駄吠えなどの問題行動の抑制などの効果もある。(p33)
※ https://www.env.go.jp/nature/dobutsu/aigo/2_data/pamph/h3002.html