災害対策としての避妊去勢手術(4) 避妊去勢手術のメリット その2

犬や猫の避妊去勢手術は、前回述べたようにさまざまなメリットがありますが、災害対策として見た場合、「放浪ペットの繁殖防止」のほかにも重要なメリットがあります。それは「迷惑行動の軽減」です。避難所でペットとともに過ごす場合、ペットの迷惑行動は他の避難者や他の同伴ペットとのトラブルの原因になります。もちろん避妊去勢手術でペットの迷惑行動のすべてを軽減することはできませんが、少なくとも繁殖行動に伴う迷惑行動を軽減することができます。

 

避妊去勢手術が行動に及ぼす影響

犬や猫の避妊去勢手術がその行動に及ぼす影響について、獣医行動学の専門家の意見を引用しておきます。

 

(1)去勢:雄性ホルモンであるテストステロンが原因となる問題行動のいくつかは,去勢によって改善される場合がある。イヌについては,マーキング,マウンティング,放浪癖,同居しているイヌに対する攻撃,飼い主に対する攻撃に対して一定の効果が期待でき,ネコについては,放浪癖,ネコ同士のけんか,尿スプレーに対してかなり有効であることが確認されている。

(2)避妊:ネコにおける過度の発情行動に対する治療目的以外の目的で避妊が問題行動の治療に用いられることはほとんどない。近年行われた調査において,攻撃行動を示す雌イヌを避妊することによって攻撃性がさらに悪化する可能性が報告されているので,この種の問題行動を抱えるイヌへの避妊には慎重を期するべきであろう。

(武内ゆかり・森裕司著「臨床獣医師のためのイヌとネコの問題行動治療マニュアル」、2001年)

 

ここでは、去勢がオス犬やオス猫の迷惑行動の軽減にかなり有効であることが述べられています。

なお「マーキング」とはオス犬やオス猫が縄張りを示すための匂い付けをさし、特にオス猫が立ったままで臭気が強い尿を壁などにかけることは「尿スプレー」と呼ばれています。

避妊手術については、少なくとも行動治療目的では一般的ではないとされていますが、環境省のパンフレット「ふやさないのも愛」には、避妊手術のメリットとしてこう記述されています。

 

発情期特有の困った行動がなくなる。(猫では大きな鳴き声、トイレ以外での排尿、外に出たがるなど。犬では出血で部屋をよごす、外に出たがる、飼い主のいうことを聞かないなど。)

 

ただしこれらの効果については、生殖腺(卵巣や精巣)を除去する術式で避妊去勢手術を実施した場合に限ることに注意が必要です。

 

同伴避難の際のメリット

ペットとの同伴が可能な避難所には、さまざまなペットが集まります。ペットを1頭だけで飼育している際には気にならなかった性的ストレスが、他のペットと一緒になることで表出するかもしれません。また発情したペットに反応して生殖行動に起因する問題行動を起こし、周囲とのトラブルの原因になりかねません。平常時にペットに避妊去勢手術を実施しておくことは、同伴避難の観点からも重要です。