犬や猫の避妊去勢手術にはさまざまなメリットがありますが、災害対策として見た場合、「放浪ペットの繁殖防止」や「避難所における迷惑行動の軽減」につながる、きわめて重要な事項です。これは決して大げさではなく、ただでさえ人手が足りない災害発生時に、自治体やボランティアの負担を軽減できる、非常に強力な災害対策ともいえます。ここをしっかりと周知していくべきだと思いますが、実際にはどうなっているのでしょうか。
「ふやさないのも愛」(平成22年)
環境省は災害対策としての避妊去勢手術の重要性について、平成22年のパンフレット「ふやさないのも愛」に記載しています。
不妊去勢をしておくと、多くの動物と一緒に暮らさなくてはならない避難所やシェルターでの性的なストレスを軽減することができます。また、シェルターで動物の世話をするスタッフやボランティアにとっても、不妊去勢をしていない動物を世話するのは大きな負担になりますから、不妊去勢をしておくことは人手も物資も不足しがちなシェルター運営を円滑にし、収容された動物がより快適に過ごせることにもなります。
災害という特殊な状況では飼っている動物が飼い主の元から離れてしまう事態も考えられますが、ノラ猫やノラ犬になって繁殖して復興の支障になったり、動物の種類によっては野外で繁殖すると自然環境に取り返しのつかない悪影響を及ぼしたりすることもあります。これらも不妊去勢をしていれば、防ぐことができます。
なかなかいい文面だと思うのですが、これ以降に発行されたペットの災害対策についてのパンフレットには、このあたりが詳しく書かれていません。
「備えよう!いつもいっしょにいたいから」(平成23年)
避妊去勢について言及されていません。
「見つめ直して人と動物の絆」(平成24年)
繁殖を予定していないのなら、繁殖制限措置を行いましょう。犬や猫などの場合、望まない繁殖を防ぐ確実な方法は不妊去勢手術です。手術のリスクはありますが病気のリスクや性的ストレスが減ります。災害時に避難先で過ごす時や、ペットを誰かに預けたりする場合にも、不妊去勢手術はペットの性的なストレスを軽くし、世話をする側の手間も軽減します。
「ペットも守ろう!防災対策」(平成29年)
不妊去勢をしておくと、多くのペットと一緒の避難所などでも、繁殖のための争いやストレスを軽減することができます。また、飼い主とはぐれている間に繁殖して放浪する動物が増えれば大きな問題になります。マーキングなど問題行動防止のためにも不妊去勢手術をしておきましょう。
「人とペットの災害対策ガイドライン」(平成30年)
…さらに、逸走時の繁殖を防止するために、不妊去勢措置を実施しておく。不妊去勢措置には、性的ストレスの軽減、感染症の予防、無駄吠えなどの問題行動の抑制などの効果もある。
「ガイドライン」にはせめて「ふやさないのも愛」に記載されている程度の内容は入れてほしかったなあというのが私の正直な気持ちです。