TNR(Trap-Neuter-Return)は「飼い主のいない猫」の人道的処遇として実施されますが、リターン後の猫を管理しなければ様々な問題が生じます。リターン後の猫のコロニー管理の重要性について、AVMA(米国獣医師会)の指針(policy)から見ていきましょう。
AVMAの指針
AVMAは「飼い主のいない猫」の管理についての指針“Free-roaming abandoned and feral cats”※(以下「指針」とする)を公表しています。これは獣医師会の公式見解ですので、米国の獣医師はこの指針に基づき野良猫の管理を行っています。なおAVMAは一般的に用いられている“community cat”という表現ではなく“free-roaming abandoned and feral cat”という表現を用いています。おそらく遺棄された元飼い猫が“abandoned cat”で、野外で繁殖した猫が“feral cat”ということなのでしょう。“free-roaming”は「自由に歩き回る」という意味ですので、ここでは“free-roaming abandoned and feral cat”を「自由生活の捨て猫や野良猫」と訳しておきます。この用語は日本の行政用語である「飼い主のいない猫」とほぼ同じ意味です。
AVMAの基本的考え方
「指針」はまず、「自由生活の捨て猫や野良猫」対策に対するAVMAの基本的な考え方から始まります。
The AVMA recognizes a mutual goal of veterinarians, humane groups and wildlife conservation entities is to reduce the number of free-roaming abandoned and feral cats in a humane and ethical manner. It therefore actively encourages collaborative efforts to identify humane and effective alternatives to the destruction of healthy cats for animal control purposes, while minimizing their negative impact on native wildlife and public health.
AVMA は、獣医師、人道団体、野生動物保護団体の共通の目標が、人道的かつ倫理的な方法で自由生活の捨て猫や野良猫の数を減らすことであると認識しています。したがって、野生動物や公衆衛生への悪影響を最小限に抑えながら、動物管理目的で健康な猫を殺処分することに代わる、人道的で効果的な代替手段を特定するための協力的な取り組みを積極的に奨励しています。
野良猫は「侵略的外来種」として、野生生物や生態系に大きな影響を与えます。また病原体の媒介や糞尿などによる生活環境の悪化など、公衆衛生上の問題も引き起こします。そのため、かつて野良猫は捕獲し駆除すべきという考え方が主流でした。しかし健康な野良猫の殺処分には人道的な問題があり、AVMAは「人道的かつ倫理的方法」により野良猫の個体数を減らしていくべきであるとしています。もちろん「野生動物や公衆衛生への悪影響を最小限に抑え」ることが前提です。
※ https://www.avma.org/resources-tools/avma-policies/free-roaming-abandoned-and-feral-cats#:~:text=Free%2Droaming%20abandoned%20and%20feral%20cats%20that%20are%20not%20in,with%20local%20and%20state%20ordinances.