野良猫の「妊娠中絶」について考える(4)

野良猫のTNR(野良猫を捕獲して避妊去勢手術ののちに捕獲場所に戻す)を実施する際に、悩ましいのが妊娠している猫の扱いです。野良猫の場合、そのまま避妊手術を実施する(つまり妊娠中絶)ことが一般的ですが、本当にそれしか選択肢がないのか、米国の猫保護団体Neighborhood Catsの“Neighborhood Cats TNR Handbook 2nd edition”(以下「ハンドブック」)から見ています。

 

野良猫を出産させるという選択肢

TNRのために捕獲した野良猫が妊娠していた場合、通常であれば出産させるという選択肢はありません。Neighborhood Catsは出産させるという選択肢もアリとしていますが、それはあくまでもやむを得ない場合の例外的措置であることを強調しておきます。「やむを得ない場合」とはどのような場合か、「ハンドブック」は以下を例示しています。

 

If the decision is not to abort, whether for ethical reasons or concerns for the health of the pregnant female, then what happens to the kittens becomes the focus. 

倫理的な理由であれ、妊娠中のメス猫の健康への懸念であれ、中絶しない決断を下した場合、子猫がどうなるかが焦点となります。(「ハンドブック」88ページ)

 

つまり野良猫の世話人が思想信条により妊娠中絶に同意しない場合、そして獣医学的観点から妊娠中絶が好ましくないと獣医師が判断した場合の2つです。後者は例えば母猫の状態が悪く手術に耐えられない、もしくは出産間近で安全に手術を実施できないと判断された場合などが考えられます。

 

出産は屋内か屋外か?

やむを得ず野良猫を出産させる場合、Neighborhood Catsは妊娠猫を屋内に収容し出産させることを推奨しています。

 

Should you trap the mom-to-be and let her raise the kittens in a cage, or leave her be to give birth outdoors? Certainly, having her give birth indoors in a secure environment will be much safer for the kittens. Outdoors, they face numerous threats - anemia induced by fleas, disease from other cats which their undeveloped immune systems can’t fight off, predators, traffic, and more. In addition, if the goal is to eventually adopt out the kittens, it will be much easier and faster to socialize them if they are born indoors and handled by people from birth.

母親になる猫を罠で捕らえケージの中で子猫を育てさせるべきか、それとも屋外で出産させたほうがいいでしょうか? 確かに、安全な環境の屋内で出産させることは、子猫にとってはるかに安全です。屋外では、ノミによる貧血、未熟な免疫系では防御できない他の猫からの病気、捕食者、交通など、数多くの脅威に直面します。さらに、最終的に子猫を譲渡することが目標である場合は、室内で生まれ、生まれたときから人の手で扱われた方が、はるかに簡単かつ迅速に子猫を人馴れさせることができます。(「ハンドブック」88ページ)

 

リターンと譲渡

妊娠猫を出産させるためには、ストレスを避けるため、野良猫用の収容環境(Feral Cat Setup)が必要です。出産後、子猫が避妊去勢手術が可能な8週齢に達したら、母猫を避妊し生息場所にリターンし、子猫に避妊去勢手術を施し譲渡します。

 

If the mom and her kittens are kept indoors, use the Feral Cat Setup, then when the litter is eight weeks or older, spay and release the mom and spay/neuter the kittens before adopting them out.

母猫と子猫が屋内で飼育されている場合は、野良猫用の収容環境を使用し、同腹仔が8週齢以上になったら、母猫を避妊してリターンし、子猫を譲渡する前に避妊去勢手術を行ってください。(「ハンドブック」88ページ)