野良猫の「妊娠中絶」について考える(5)

野良猫のTNR(野良猫を捕獲して避妊去勢手術ののちに捕獲場所に戻す)を実施する際に、悩ましいのが妊娠している猫の扱いです。野良猫の場合、そのまま避妊手術を実施する(つまり妊娠中絶)ことが一般的ですが、そこには技術的問題もあります。妊娠中絶に関する技術的問題について、米国の避妊去勢プログラムの統一基準である“The Association of Shelter Veterinarians’ 2016 Veterinary Medical Care Guidelines for Spay-Neuter Programs”(ASVの避妊去勢プログラムにおける獣医療ガイドライン2016)(https://avmajournals.avma.org/view/journals/javma/249/2/javma.249.2.165.xml)から見ていきましょう。

 

手術の安全性

前述のとおり、妊娠中絶も通常の避妊手術と手順は同じで、安全性に問題はないとされています。「ガイドライン」にはこう書かれています。

 

For animals that are pregnant, lactating, or in estrus or that have pyometra, the task force’s experience has been that neutering can be safely performed.

妊娠中、授乳中、発情中の動物や子宮蓄膿症の動物に対しては、タスクフォース(特別委員会)の経験では、避妊手術を安全に行うことができるとされている。

 

なお、出産直前の妊娠中絶は技術的に可能ではありますが、母体への負担や胎仔の取扱い(後述)に注意が必要です。場合によっては出産が検討される場合もあります。

 

胎仔の安楽殺

母体から子宮ごと摘出された胎仔はそのまま死を迎えるわけですが、そもそも胎仔には意識がないため、あえて安楽殺の処置は必要ありません。「ガイドライン」にはこう記載されています。

 

Spaying pregnant cats and dogs—When spaying pregnant cats and dogs, fetal euthanasia is not necessary to ensure humane death. Mammalian fetuses remain in a state of unconsciousness throughout gestation and, therefore, cannot consciously perceive pain. When a gravid uterus is removed en bloc, fetuses will not experience consciousness regardless of stage of gestation and death will occur without pain. However, if the uterus and amniotic sac are opened, it may be possible for near-term fetuses to gain consciousness. In this case, humane euthanasia of each individual fetus is required unless resuscitation efforts are medically indicated and elected.

妊娠中の犬・猫の避妊手術-妊娠中の犬や猫の避妊手術の際、人道的な死を確保するために胎仔の安楽殺は必要ない。哺乳類の胎仔は、妊娠期間中は無意識の状態にあるため、痛みを感じることがない。妊娠中の子宮を一括して摘出した場合、胎仔は妊娠の段階に関わらず意識を持たず、痛みを伴わずに死を迎えることになる。しかし、子宮と羊膜嚢を開いてしまえば、臨月の胎仔が意識を持つことは可能かもしれない。この場合、医学的に蘇生措置が適応され選択されない限り、個々の胎仔の人道的安楽殺が必要である。

 

出産直前の胎仔は意識を持っている可能性があるため、取り出した胎仔に蘇生措置を施すか、個別に安楽殺措置を施すかの選択が求められます。