Dolanら(2020)の論文“Pre-mortem risk factors for mortality in kittens less than 8 weeks old at a dedicated kitten nursery”※1(子猫の保育所における生後8週齢未満の子猫の死亡率の生前リスク要因)を参考に、保護子猫の死亡リスクについて見ています。
保護子猫の死亡リスク
前述のとおり、子猫をアニマルシェルターに受け入れた場合、感染症防止や社会化などとにかく手がかかります。そしてそのように手をかけたとしても、子猫は死亡リスクが極めて高いというのは、体感的に感じている方は多いと思います。Murrayら(2008)※2は、シェルターにおける7週齢未満の子猫の死亡率は1~3歳の猫の約4倍であると報告しています。
保護子猫の危険因子
保護子猫を対象にした研究において、以下のような危険因子が報告されています。
汎白血球減少症ウイルス
Caveら(2002)※3は、汎白血球減少症が子猫の死亡の重要な原因であることを示唆しています。汎白血球減少症は猫パルボウイルスによる感染症で、3種混合ワクチンで予防できますが、ワクチン未接種の野良子猫の感染率が高いといわれています。
腸球菌
Ghosh ら(2013)※4はシェルターに収容された子猫の腸内細菌を調査し、Enterococcus faecalisについて、健康な子猫の4%しか保菌していなかったにもかかわらず、シェルターで死亡した子猫の20%が保菌していたと報告しています。Enterococcus faecalisは腸内常在菌とされていて、子猫に対する病原性は不明です。
非定型腸管病原性大腸菌
Watsonら(2017)※5もシェルターに収容された子猫の腸内細菌を調査し、シェルターで死亡した子猫の18%から非定型腸管病原性大腸菌が検出されたにもかかわらず、健康な子猫からは検出されなかったと報告しています。腸管病原性大腸菌はいわゆる病原性大腸菌の一種で、腸炎の原因菌のひとつです。
(おまけ)ビタミンおよびミネラルのサプリメント投与に関連する死亡リスクの減少
余談ですが、Strongら(2020)※6は下痢を呈した保護子猫の死亡リスク要因を調査し、その死亡率は 11% で、ビタミンおよびミネラルのサプリメント投与により死亡リスクが減少すると報告しています。
これらの危険因子はいずれも死亡した子猫の所見から導き出されたもので、子猫の死亡原因の推定には役立ちますが、臨床的には「こういう症状を呈していると死亡率が高い」といったデータの方が有用です。そこでDolanらは子猫の「生前の症状」と「死亡率」との関係を調べてみたわけです。
※1 Journal of Feline Medicine and Surgery 2021, Vol. 23(8) 730–737
https://doi.org/10.1177/1098612X20974960
※2 Murray JK, Skillings E and Gruffydd-Jones TJ. A study of risk factors for cat mortality in adoption centres of a UK cat charity. J Feline Med Surg 2008; 10: 338–345.
※3 Cave TA, Thompson H, Reid SWJ, et al. Kitten mortality in the United Kingdom: a retrospective analysis of 274 histopathological examinations (1986 to 2000). Vet Rec 2002; 151: 497–501.
※4 Ghosh A, Borst L, Stauffer SH, et al. Mortality in kittens is associated with a shift in ileum mucosa-associated enterococci from Enterococcus hirae to biofilm-forming enterococcus faecalis and adherent Escherichia coli. J Clin Microbiol 2013; 51: 3567–3578.
※5 Watson VE, Jacob ME, Flowers JR, et al. Association of atypical enteropathogenic Escherichia coli with diarrhea and related mortality in kittens. J Clin Microbiol 2017; 55: 2719–2735.
※6 Strong SJ, Gookin JL, Correa MT, et al. Interventions and observations associated with survival of orphaned shelter kittens undergoing treatment for diarrhea. J Feline Med Surg 2020; 22: 292–298.