Dolanら(2020)の論文“Pre-mortem risk factors for mortality in kittens less than 8 weeks old at a dedicated kitten nursery”※(子猫の保育所における生後8週齢未満の子猫の死亡率の生前リスク要因)を参考に、保護子猫の死亡リスクについて見ています。
猫かぜ
URI(猫かぜ)は一般的に致死的疾患とはされていませんが、幼齢子猫は感受性が強く重症又は死亡の可能性があります。特に幼齢子猫では猫カリシウイルスと猫ヘルペスウイルスの同時感染が一般的であり、重症化の要因にもなります。また猫かぜによる肺の障害や免疫低下は他の病原体の二次感染の原因にもなります。この研究によると、子猫が(処置が必要な)猫かぜに罹患した場合には死亡リスクが4倍近くになります。
この研究で興味深いのは、子猫の受入れ時期とURIとの関係です。具体的には、受入れ時期が8月~11月(つまり「子猫の季節」の終盤)でURIに罹患していた子猫の死亡リスクがやや高かったことです。この原因として、2つの可能性が考えられます。ひとつはこの年、もしくはニューヨーク市において、たまたまこの時期にURIの流行期を迎えていた、もしくは強毒の病原体が蔓延していた可能性、もうひとつは「子猫の保育所」の管理上の問題です。
「子猫の保育所」を含むアニマルシェルターには、固有の「収容能力」があります。これは単にケージの数だけではなく、人的資源や物的資源など総合的な要因で決まります。「子猫の保育所」にも固有の収容能力があり、それは概ね一定です。一般的に子猫がシェルターに収容されるのは、4月から11月のいわゆる「子猫の季節」です。「子猫の保育所」が受け入れた子猫は譲渡が可能となる8週齢(約2か月)まで収容されます。4月や5月といった「子猫の季節」の序盤は、ひたすら子猫を受け入れるだけですので、収容された子猫の数は収容能力を大幅に下回ることが予想されます。その場合、各子猫に対して手厚いケアが可能であると考えられます。逆に「子猫の季節」の終盤になると、以前に受け入れて8週齢に達していない子猫に加えて、新たな子猫を受け入れることになります。そのため時期が遅くなるほど、収容能力の上限に近い子猫が滞在することになります。それは「子猫の季節」の序盤のような手厚いケアが期待できないかもしれないことを意味しますし、過密により感染症が蔓延する可能性も否定できません。
これはあくまでも推測の域を出ません。もちろんこの研究だけで原因が病原体の流行状況によるのか「野猫の保育所」の管理上の問題のどちらかということを究明することは困難です。調査対象を里親(預かりボランティア)に広げたり、URIを引き起こす病原体の季節的変動の調査などにより、さらに精度の高いリスク分析が可能になるかもしれません。
※ Journal of Feline Medicine and Surgery 2021, Vol. 23(8) 730–737
https://doi.org/10.1177/1098612X20974960