Dolanら(2020)の論文“Pre-mortem risk factors for mortality in kittens less than 8 weeks old at a dedicated kitten nursery”※(子猫の保育所における生後8週齢未満の子猫の死亡率の生前リスク要因)を参考に、保護子猫の死亡リスクについて見ています。
食欲不振と削痩
この研究では、食欲不振やBCSが低い(=削痩)子猫は、そうではない子猫よりも死亡リスクが2~3倍高いことが示されました。一般的に食欲不振や削痩は病気と関連していますから、この結果は当然といえるでしょう。それらの相互作用、または基礎疾患や栄養失調との関連については、この研究だけでは判断できませんが、食欲不振と削痩はいずれも、子猫で特定されればただちに処置が必要な死亡リスク要因であることが示されました。
下痢
この研究では、下痢のある子猫は下痢のない子猫よりも死亡リスクが45%高いことが示されました。研究対象となった子猫の72%は「子猫の保育所」への収容中に下痢と診断され、体重減少に次ぐ2 番目によく見られる臨床兆候でした。「子猫の保育所」における下痢の発生率は、過去の同様の報告よりも高い値を示しました。それは「子猫の保育所」の子猫が綿密に監視されていて、下痢の発見率が高かったことを反映しているのかもしれません。もしくは「子猫の保育所」という場所特有の、例えば密集、病気への曝露、ストレス、幼齢子猫の栄養の問題といった要因の相互作用により、下痢の発生率が高くなったのかもしれません。そのどちらであるかは、この研究だけではわかりません。
汎白血球減少症
この研究では、獣医師により汎白血球減少症と診断された子猫については、死亡リスクが13倍であることが示されました。汎白血球減少症は「猫パルボウイルス感染症」とも呼ばれ、子猫に対して重篤な症状を示すことが知られているため、予想されたとおりの結果でした。しかし汎白血球減少症と診断された子猫13頭のうち、9頭が死に至らなかったことは注目に値します。
それぞれの症状が重要
今回の結果は、下痢と食欲不振、体重減少と汎白血球減少症がすべて子猫の死亡リスクの独立した予測因子であったことを示しています。つまり、例えば下痢が体重減少を引き起こしたといったことではなく、それぞれが重要な死亡リスク要因であることを示しているのです。なぜそのような分析が可能であるのか、詳しい統計手法については割愛しますが(興味のある方は原文にあたってください)、症状の発生時期と死亡時期を関連付けた「エピソード分割技術(episode-splitting technique)」という手法を用いて、死亡と直接関係のない症状を除外しているそうです。
※ Journal of Feline Medicine and Surgery 2021, Vol. 23(8) 730–737
https://doi.org/10.1177/1098612X20974960