Dolanら(2020)の論文“Pre-mortem risk factors for mortality in kittens less than 8 weeks old at a dedicated kitten nursery”※(子猫の保育所における生後8週齢未満の子猫の死亡率の生前リスク要因)を参考に、保護子猫の死亡リスクについて見ています。
死亡リスクに関連しない要因
この研究では、「子猫の保育所」の子猫の死亡リスクに関連しない要因も報告されています。例えば子猫の性別は、死亡リスクに有意な影響を与えませんでした。また興味深いのは、子猫の外傷は死亡リスクを増加させないどころか、かえって低下させた点です。その要因として、外傷がある子猫は処置や手厚いケアによってほかの病気の発生を予防することができた可能性や、重大な疾病に罹患していた子猫の小さな外傷が見逃された結果による可能性が指摘されています。もっとも「外傷」といっても、首輪が口に引っかかった程度の軽症から、腫瘍や骨折といった重症までが含まれますので、この結果をもって外傷による死亡リスクが低いと結論付けることは早計ですが、この研究は少なくとも子猫の軽度~中度の外傷による死亡リスクは気にしなくてもよいことを示しています。
調査結果の一般化
以上の結果はASPCA(米国動物虐待防止協会)といった大きな動物保護団体が設置した子猫専門の保護施設という、ある意味特殊な環境で得られたものです。この論文は、結果について里親(預かりボランティア)や一般のアニマルシェルターにも当てはめることができるかどうかについても考察しています。
統計の普遍性
この研究で報告された子猫の死亡率は13%で、公表されている幼齢子猫の死亡率と大差ありません。その他の収容統計についても一般的なシェルターの幼齢子猫と大きく異なるようには見受けられませんでした。ただし病原体の蔓延状況は地域によって異なるため、比較には注意が必要としています。
移送の影響
この研究が行われた「子猫の保育所」は市民から直接子猫を受け入れるほか、公営の動物保護センターなどの協力施設からも子猫を受け入れます。それらの施設では治癒の見込みのない重症の子猫は安楽殺されたり、そのまま施設で死亡したりすることがあります。これらの子猫は「子猫の保育所」に収容されないため研究対象に含まれず、統計上の影響が予想されましたが、研究が行われた2017年にはそういった子猫はほとんどいなかったことが確認されています。
調査対象の類似性
「子猫の保育所」はある意味特殊な施設ではありますが、受け入れ対象が保護子猫であることは他のシェルター等と同じであり、収容前に同様の状況にさらされていたことを考えると、この結果はある程度一般化されうるのではないかと論文は結論付けています。
※ Journal of Feline Medicine and Surgery 2021, Vol. 23(8) 730–737
https://doi.org/10.1177/1098612X20974960