未殺菌牛乳の摂取が原因と疑われる猫の高病原性鳥インフルエンザ感染事例について(2)

2024年3月に米国テキサス州で発生した、未殺菌牛乳の摂取が原因と疑われる猫の高病原性鳥インフルエンザ感染事例について、CDC(米国疾病予防管理センター)の速報(https://wwwnc.cdc.gov/eid/article/30/7/24-0508_article)を参考に見ています。

 

牛の高病原性鳥インフルエンザ

従来の報告によると、牛はA型インフルエンザウイルス(IAV)に対する感受性が比較的低く、感染が成立しないか、感染したとしても不顕性感染であると考えられてきました。牛のIAV感染事例は日本や英国、ソ連などで報告されていますが、ウイルスの乳中への排出や、それを飲んだ猫への感染といった報告はこれまでありませんでした。2024年のテキサス州の事例は、乳牛がIAVに感染し、乳中にウイルスを排出しうることを示しました。

 

猫の高病原性鳥インフルエンザ

イエネコは高病原性鳥インフルエンザ(HPAI)ウイルス(H5N1)に感染しやすく、感染した猫は神経症状を示すことが知られています。猫の感染経路は、ウイルスに感染した野鳥やウイルスに汚染された加熱不十分の家禽食品の摂取によることがほとんどです。猫の場合、ほとんどが感染後2~3日で臨床症状が現れます。

 

感染経路の推定

今回の事例において牛や猫にHPAIウイルスが感染した経路については特定されていませんが、最も可能性が高い感染経路が示されています。牛への感染経路は、渡り鳥の糞便に汚染された飼料の摂取が原因であると推定されています。また猫への感染経路は感染した渡り鳥の摂取の可能性も否定できませんが、感染牛の乳中に多量のウイルスが排出されていたことや未殺菌乳を摂取した猫のあいだに高率に感染が起こったことなどを考えると、感染牛の未殺菌乳の摂取が原因と考えるのが合理的です。

 

保護猫活動への影響

猫が未殺菌の牛乳を摂取するということは通常あり得ませんが、故意にしても過失にしても、この事例は農場でこのようなことが起こりえるということを示しています。そしてこの事例では感染経路は不明ですが、HPAIが人間にも感染しています。そのため農村部で活動する野良猫の保護活動、例えば農場に野良猫を放し飼いにするいわゆる“barn cat program”や、農場周辺の野良猫を保護し譲渡する活動、そして農村部におけるTNR活動などを実施する際には、細心の注意が必要です。具体的には

 

・人獣共通感染症についての最新の情報を入手する

・乳牛や野鳥に接触した可能性がある野良猫が呼吸器症状や神経症状を呈している場合、取り扱う際には手袋、マスク、ゴーグル(またはフェイスシールド)といったPPE(個人防護具)を着用する

 

これはHPAIに限らず、人獣共通感染症から身を守るための共通事項でもあります。(終)