2024年に、世界小動物獣医師会(WSAVA)のワクチンガイドラインが改正されました(https://wsava.org/wp-content/uploads/2024/04/WSAVA-Vaccination-guidelines-2024.pdf)。アニマルシェルターに収容された犬や猫のワクチン接種に関しては大きな変更点はありませんが、再確認しておきたいと思います。その前に、シェルターにおけるワクチン接種の基本的な考え方についておさらいしておきましょう。
アニマルシェルターの類型
「帰る家がない」動物を受入れる、いわゆるアニマルシェルターには2つの類型があります。ひとつは動物の一時収容を前提とした一般的なアニマルシェルター、もうひとつは長期収容を前提とした「サンクチュアリ」と呼ばれるシェルターです。どちらのシェルターも、十分な獣医療を受けたことがない、いわゆる「野良」動物も受け入れるという点においては共通で、収容動物のワクチン接種の考え方もおおむね共通です。しかし長期滞在を前提とした「サンクチュアリ」の場合、若干考え方が異なる部分があるので注意が必要です。
シェルターにおける「群管理」
シェルターはさまざまな出自の動物を受入れます。その中にはワクチン接種を受けていない、もしくはワクチン接種歴が不明の動物も含まれています。そして受け入れ時にすでに病原体を保有している動物が含まれている可能性もあります。つまりシェルターは、感染症に罹患するリスクが極めて高い場所であるといえます。そのためシェルターにおいては、個々の動物の感染症対策だけではなく、シェルター内の動物全体の感染症対策につながるようなワクチン接種を実施していかなければなりません。感染症罹患のリスクが極めて低い家庭動物に最適とされているワクチン接種の手順が、必ずしもシェルターでも有効とは限らないのです。シェルター獣医師会(ASV)の“The Association of Shelter Veterinarians’ Guidelines for Standards of Care in Animal Shelters, 2nd Edition (2022)”によると、その違いは次の3点です。
・幼齢動物に対しても早い段階からワクチンを接種し、かつ複数回接種する
・比較的短い期間に複数回ワクチンを接種する
・コアワクチン(必須のワクチン)とノンコアワクチン(必要に応じて接種するワクチン)の分類が家庭動物とは異なる
シェルターにおけるワクチン接種の考え方
前述のとおりシェルターの動物の健康管理は「群管理」が基本です。個々の動物の健康も重要ですが、その動物が感染源となり感染症が蔓延することを防止することも重要です。そのため年齢や健康状態、妊娠の有無などを問わず、原則として受け入れた動物には速やかにワクチンを接種します。