アニマルシェルターにおけるワクチン接種(2) シェルターにおけるワクチン接種の基本

2024年に改正された、世界小動物獣医師会(WSAVA)のワクチンガイドライン(https://wsava.org/wp-content/uploads/2024/04/WSAVA-Vaccination-guidelines-2024.pdf)。から、アニマルシェルターに収容された犬や猫のワクチン接種について見ています。

 

シェルターのワクチン接種の3要素

前述のとおり、アニマルシェルターにおける感染症予防は、個々の動物に着目すると同時に、収容動物全体を群として捉えていかねばなりません。「ガイドライン」はシェルターにおけるワクチン接種の3要素について次のように述べています。

 

1. Vaccinate all animals at admission with core vaccines;

受け入れ時にすべての動物にコアワクチンを接種する、

 

2. Use vaccines that induce rapid protection; and

効果が早く現れるワクチンを接種する、そして

 

3. Start primary vaccination of juvenile animals at 1month of age and repeat every 2 to 3weeks while in the shelter until 5months of age.

幼齢動物の初回ワクチン接種を生後1か月齢で開始し、シェルターにいる間は生後5か月齢になるまで2~3週間ごとに繰り返し接種する。

 

シェルターで問題になる病原体

シェルターにおいて、犬や猫に重大な(時に致死的な)影響を及ぼす病原体として、CDV(犬ジステンパーウイルス)、CPV(犬パルボウイルス)、FPV(猫パルボウイルス)があげられます。またシェルターでは、呼吸器症状を起こす病原体がしばしば問題になります。犬ではBordetella bronchiseptica(ボルデテラ菌)やCAV-2(犬アデノウイルス2型)、CPiV(犬パラインフルエンザウイルス)、猫ではFHV(猫ヘルペスウイルス)やFCV(猫カリシウイルス)が代表的です。

 

ワクチンは早く打つべき

米国のシェルターにおける複数の調査によると、シェルターに収容される生後6か月未満の子犬や子猫、そして成犬や成猫であっても3~5割の個体がCDV、CPV、FPV、FHV、FCVの抗体をまったく、もしくはほとんど持っていません。これは犬や猫の多くが、シェルターでしばしば問題になる重要な感染症に対する防御が不完全なまま、シェルターに入ってくることを意味します。そのためシェルターにおける感染症対策で最も重要なことは、できるだけ多くの個体にできるだけ早くワクチンを接種することです。BannaschとFoley (2005)によると、ワクチン接種が1日遅れるだけでも、その動物の感染リスクやシェルター内で病原体が蔓延するリスクが大幅に上昇する可能性があるとされています。シェルターにおける犬や猫のワクチン接種についての考え方は、一般の家庭動物とは大きく異なります。