殺処分数を減らすには(3) 犬(成熟個体)の統計 その2

「令和5年度動物愛護管理行政事務提要」https://www.env.go.jp/nature/dobutsu/aigo/2_data/statistics/files/r05/2_4_1.pdf)を参考に、犬(成熟個体)の引取りの現状について見ています。

 

飼い主不明の犬

飼い主不明の犬については、実数でいえば猫(幼齢個体)に次ぐ数が収容されています。しかしその半数以上が飼い主からはぐれた「迷い犬」で、飼い主に返還されます。残りの約半数がいわゆる野良犬(行政用語でいう「野犬」)ということになります。

 

犬については「狂犬病予防法」第6条第1項の規定により、狂犬病予防員(自治体職員の獣医師:私も任命されています)の義務として「未登録」「鑑札未装着」「予防注射未接種」「注射済票未装着」のいずれかに該当する犬(3か月齢以上)については捕獲し抑留しなければなりません。成犬は唯一、自治体による捕獲が法律で義務付けられているのです(子犬や猫については自治体による捕獲規定はありません)。

 

抑留した犬は公示し飼い主を探しますが、法の規定では2日の公示期間+1日で「処分(殺処分とは限らない)」が可能です。まだ動物愛護意識が今ほど高まっていなかったほんの10数年前には、公示期間が満了した犬は問答無用で殺処分されていましたが、現在では環境省の「殺処分ゼロ」政策もあり、多くの自治体は自主的に公示期間を延長したり、公示期間が満了次第保護団体に「譲渡」するといった運用を行っています。

 

飼い主への返還

「飼い主不明」として収容された犬(成熟個体)の半数以上が、飼い主へ返還されています。成犬の返還率の高さは万国共通で、米国のシェルターメディスンの教科書にもそう書かれています。おそらく登録制度の有無が返還率に影響しているのではないかと考えられます。

 

譲渡

飼い主から引き取った元飼い犬は比較的譲渡が容易ですが、「野犬」の譲渡は容易ではありません。その多くが保護団体に「譲渡」(これを「譲渡」と呼んでもよいのかということはともかく)され、そこから個人へ譲渡されていきますが、団体間のたらい回しや安易な譲渡といった問題も発生しています。これは団体の問題ではなく、自治体の丸投げ体質の問題であると私は認識しています。

 

殺処分

犬(成熟個体)の殺処分率(20.9%:返還数を除く)は猫(成熟個体)(47.3%)の半分以下です。しかしそれは保護団体への「丸投げ」の成果であるともいえます。私は見かけの殺処分率の低さが物事の本質を見誤らせているのではないかと危惧しています。「譲渡不可」の野犬をどうするか、例えば殺処分もやむなしとするのか、野犬の馴化のためのリソースを整備するのか、それとも野犬のCNVR(野犬を捕獲し避妊去勢手術と狂犬病ワクチン接種後捕獲場所に戻す)を解禁するのか、これらはいずれも民間の保護団体の手に負えるような事柄ではありません。やはりこれは国策として方針を決めるべきではないでしょうか。