殺処分数を減らすには(5) 犬(幼齢個体)の統計 その2

「令和5年度動物愛護管理行政事務提要」https://www.env.go.jp/nature/dobutsu/aigo/2_data/statistics/files/r05/2_4_1.pdf)を参考に、令和4年度に全国の自治体で引取られた幼齢子犬についての統計を見ています。

 

野良犬の生息地域は限られている

「所有者不明」の幼齢子犬の収容が比較的少ない理由として、「野良犬の絶対数が少ない」ことがあげられます。野良犬(いわゆる「野犬」)が生息し繁殖している地域は西日本を中心に偏在しています。つまり「いるところにはたくさんいるが、いないところにはいない」のです。野良犬がいなければ、子犬も生まれません。

 

離乳直後の子犬が最も保護しやすい

「所有者不明」の幼齢子犬の収容が比較的少ない最後の理由は、技術的問題です。野良犬の成犬の捕獲はきわめて難しい※1ため、子犬のうちに保護※2する方が簡単です。しかし離乳前の子犬は母犬の庇護を受けているため、意外に保護は難しいのです。余談ですが、犬は集団保育をしないといわれていますが、私は複数の母犬が交代で授乳し、残りの母犬が周辺を警戒している現場を見たことがあります。こういう状況下で子犬だけを保護するのは極めて危険です。子犬が離乳すれば、母犬がねぐらを離れた隙に子犬だけを保護することが可能です。

 

幼齢子犬の譲渡

幼齢子犬の約8割は譲渡されています。通常幼齢(離乳前)の子犬は個人への譲渡対象にはならないため、自治体が離乳まで育てて譲渡したか、もしくは保護団体に引き渡しそこから個人に譲渡したケースが多いと推測されます。なお幼齢子犬のほとんどが「飼い主不明」、すなわち野良犬の子ですが、子犬から育てればある程度人馴れもしますので、譲渡は比較的容易です。

 

幼齢子犬の殺処分

幼齢子犬の約1割が殺処分されていますが、この数は比較的少ないといえます。幼齢子犬は幼齢子猫ほど管理が難しくなく、離乳まで育てれば譲渡も比較的容易なため、あえて殺処分ということが少ないのではないかと推測されます。どちらかといえば、パルボウイルス感染症などで死亡、もしくは防疫措置のために殺処分したケースが多いと思います。

 

※1 一部自治体でICT(情報通信技術)を用いた野犬の捕獲が実施され成果をあげているので、将来的には成犬の捕獲も比較的容易になっていくかもしれません。捕獲した野犬をどうするかという問題は依然残りますが。

 

※2 ここで「保護」という表現を用いているのは、生後3か月以内の子犬は登録や予防注射が義務付けられていないため「狂犬病予防法」の規定に基づく捕獲や抑留の対象にはならず、あくまでも「動物愛護法」に基づく引取りの扱いになるからです。自治体は引取りを拒否「できる」という規定ですので、野良子猫の引取りは拒否しつつ、野良子犬の引取りは拒否しないというわけです。