殺処分数を減らすには(12) 犬(成熟個体)の対策 その3

「令和5年度動物愛護管理行政事務提要」https://www.env.go.jp/nature/dobutsu/aigo/2_data/statistics/files/r05/2_4_1.pdf)を参考に、犬や猫の収容や殺処分をどうやって減らしていくかを考えています。

 

野犬の適切な譲渡

家庭動物としての適性がない野犬を無理やり譲渡すると何が起こるか、私が経験した事例だけでもこれだけあります。

 

犬と飼い主家族の両方のQOLが低下する

特に元野犬を屋内で飼育している場合、飼い主やその家族、物品などに危害を加えることがあります。もちろんそれは犬のせいではなく、いきなり慣れない環境下に置かれたストレスのせいです。また元野犬の中にはコミュニケーションが荒っぽい個体もいて、飼い主が血だらけになりながらも可愛がっている様子を見たことがあります。飼い主やその家族のQOL(生活の質)にも影響を与えますので、結局は飼いきれなくなり自治体に引取りを求めることになります。

 

逸走して繁殖する

最近西日本の自治体から、保護団体を通じて大都市圏に野犬が譲渡される事例が増えていて、野犬の扱いに慣れていない人が(慣れている人の方が珍しいですが)逸走させてしまうといったことがしばしば発生しています。もともと野犬ですから野外生活には馴れていますし、避妊去勢手術未実施であれば新天地で繁殖するおそれもあります。

 

団体による多頭飼育

自治体に収容された野犬は個人への譲渡も行っていますが、あまり人気はありません。収容された野犬の多くは公示期間が満了すると、殺処分を回避するため地元の動物保護団体が「引き出し」ます。これはシェルター間の移送に該当すると私は思うのですが、行政用語では「団体譲渡」と呼ばれています。この表現に「あとのことは知らない」という冷たさを感じるのは私だけでしょうか。団体も目先の殺処分を回避することに必死で、必ずしも譲渡先のめどが立っているわけではありません。結果的に受入れ個体数が増えてアニマルホーダー化してしまう団体も珍しくはありませんし、そうでないにしてもほとんどの団体が人員や資金などに苦労しています。

 

ならばどうする?

野犬を適切に譲渡する方法は次の2つしかないと私は考えます。

 

・野犬の飼育についてのスキルを有し、かつ相応の飼養施設を有した人に譲渡する

・少なくとも家庭内で問題を起こさない程度に馴化してから譲渡する

 

それでも一部の野犬は譲渡の対象になりえないことが予想されます。どうしても野犬の殺処分を回避したいというのであれば、終生飼養を前提としたサンクチュアリの設置や、CNVR(野犬を捕獲し、避妊去勢手術と狂犬病ワクチン接種ののちに捕獲場所に戻す)なども検討しなければならないかもしれません。それらには費用面や安全面などの社会的コストが伴います。そのコストを誰が引き受けるのか、社会的な議論が必要です。一部の人や犬の負担で成り立っている目先の「殺処分ゼロ」に満足し、思考停止している場合ではありません。