殺処分数を減らすには(18) 猫(成熟個体)の対策 その5

「令和5年度動物愛護管理行政事務提要」https://www.env.go.jp/nature/dobutsu/aigo/2_data/statistics/files/r05/2_4_1.pdf)を参考に、犬や猫の収容や殺処分をどうやって減らしていくかを考えています。

 

猫(成熟個体)の殺処分

猫(成熟個体)については、殺処分率が極めて高い(46%)ことが大きな特徴です。目先の殺処分数を減らすために「飼い主不明猫」の引取りを拒否することは、その是非はともかく、理にかなっているといえます。なぜ猫(成熟個体)の殺処分率が高いか、その原因はおそらく次の2点です。

 

・猫の収容数があまりにも多いこと

・野良猫は性格上家庭動物に向かず、「譲渡不適」と判断されやすい

 

たとえ引取り拒否したとしても、それなりの数の猫が自治体に収容されます。その猫たちは収容施設のスペースを圧迫します。子猫ならともかく成猫はなかなか譲渡できないため、長期収容になりがちです。本当に収容スペースがいっぱいになってしまったら、何らかの手段でスペースを開けざるを得ません。その際に、「譲渡不適」と判断された猫から殺処分されていくわけです。これは収容動物の福祉を担保するため、米国のアニマルシェルターでも行われていることです※。

 

「引き出し」システムの破綻?

以前、安直に引き受けた元野犬を「飼いきれなくなった」という理由で自治体に引取りを依頼するケースが増えていると述べましたが、猫が制御不能で飼いきれなくなったという引取り依頼は皆無ではないにしてもあまり聞きません。飼い主の死亡や入院などで引き取った(多くの場合多頭の引取りになります)猫の中には「よくこんな猫を飼っていられたな」と思うくらい人馴れしていない個体もいます。つまり人馴れしていない野良猫を無理やり譲渡したとしても、野犬ほどの被害は生じないと考えられるのです。たとえ猫の収容数がべらぼうに多かったとしても、殺処分を回避するためには、動物保護団体がどんどん引き出してどんどん譲渡すればよいのではないでしょうか…しかし現実にはそうなっていません。譲渡率は約半数にとどまり、残り約半数の猫が殺処分されているわけです。

私が知る限り、猫を扱う保護団体は収容能力ギリギリの猫を抱えていて、新規受け入れがなかなか難しいという現状があります。殺処分回避のために自治体から猫を引き出したものの、譲渡先が見つからず長期滞在になってしまう猫があまりにも多いのです。そこで無理して受け入れてしまうと、自らが多頭飼育崩壊に陥ってしまいます。もしかしたら、殺処分を回避するために動物保護団体が自治体から犬や猫を「引き出し」て譲渡するというシステム自体が破綻しかけているのかもしれません。

 

※こういった殺処分の多さも、シェルターメディスンという獣医療が生まれるきっかけとなった問題意識のひとつです。