殺処分数を減らすには(19) 猫(成熟個体)の対策 その6

「令和5年度動物愛護管理行政事務提要」https://www.env.go.jp/nature/dobutsu/aigo/2_data/statistics/files/r05/2_4_1.pdf)を参考に、犬や猫の収容や殺処分をどうやって減らしていくかを考えています。

 

「サンクチュアリ」はダメなのか

殺処分を行わない「ノーキル」シェルターのうち、受け入れた動物を終生飼養することを前提としたシェルターは特に「サンクチュアリ」と呼ばれます。殺処分に反対する人たちは「動物を殺処分せずにずっと飼えばよい」と簡単に言いますが、それがまさに「サンクチュアリ」のことです。欧米では譲渡不適の猫を集合飼育している「サンクチュアリ」が珍しくありません。私は「サンクチュアリ」の存在を否定しませんし、適切に運用されるのであれば「サンクチュアリ」もアリと思っています。しかし「サンクチュアリ」に頼りきってしまうことには危うさも感じています。その理由は次のとおりです。

 

「サンクチュアリ」が多頭飼育崩壊に陥るおそれがある

「サンクチュアリ」の中にも、広大な敷地と潤沢な資金を有する大規模なものから、個人宅に毛が生えた規模のものまでさまざまな形態があります。米国では小規模の「サンクチュアリ」(と称している多頭飼育者)が多頭飼育崩壊を招いた事例が多数報告されています。また大規模の「サンクチュアリ」にしても、いつ何時破綻するかは誰にもわかりません。

 

長期収容には動物福祉上の懸念がある

殺処分を回避するためとはいえ、動物をただ単に生かしておくことは動物福祉上許されません。「サンクチュアリ」においても、収容動物の福祉は担保されなければなりません。しかしどんなに動物福祉を考慮した施設を作り、充実したエンリッチメントを行ったとしても、長期収容自体が動物にとってストレスになる可能性があります。

 

コストがかかる

短期、長くても数ヶ月以内に何らかの「結果」を出そうとする一般のシェルターと異なり、「サンクチュアリ」は運営コストがそれなりにかかります。現在潤沢な資金で運営されているとしても、その資金がずっと続くとは限りません。

 

「サンクチュアリ」に頼り切ることは危険

 飼養施設や人員などを潤沢に揃え、動物福祉上全く問題なく犬や猫の長期収容が可能なシェルターを作ったとしても、調子に乗ってどんどん動物を受け入れるとすぐにいっぱいになります。良いシェルターはたくさんの動物を受け入れるためのものではなく、シェルターに入るべき動物を極力少なくする努力をしつつ、どうしても受け入れざるを得ない動物に快適に過ごしてもらうためのものだという意識が必要です。お金をかけて良いシェルターを作るよりも、シェルターに入るべき動物の数を減らすための愚直な努力のほうがはるかに重要です。