「令和5年度動物愛護管理行政事務提要」https://www.env.go.jp/nature/dobutsu/aigo/2_data/statistics/files/r05/2_4_1.pdf)を参考に、犬や猫の収容や殺処分をどうやって減らしていくかを考えています。
ミルクボランティアの重要性
一般的に幼齢子猫、特に離乳前子猫をアニマルシェルターに収容することは奨励されません。シェルターメディスンの教科書にもそう書かれています。シェルターにはさまざまな出自の動物が集まってくるため、感染症のリスクが極めて高いからです。そのため、米国のシェルターでは8週齢以内の幼齢子猫は里親(foster)に預けられることが多いですし、ASPCA(米国動物虐待防止協会)のように、幼齢子猫専門のシェルターを設けている団体もあります。日本では幼齢子猫の扱いはさまざまで、動物愛護センターで職員が授乳しているケースもありますし、「ミルクボランティア」に預けている自治体もあります。日本において基本的に野良猫の引取りを拒否している以上、欧米のように幼齢子猫を野外に「放置する」べきではないと私は考えています。つまりミルクボランティアの役割が重要というわけです。
「里親」とどう違うか
米国ではシェルターの収容動物を一時的に預かる「里親(foster)」の地位が確立されていて、州によっては動物取扱業の規制を受けます。シェルターに幼齢や老齢などハイリスクの動物が収容された場合、里親に預けることが一般的です。なおASV(シェルター獣医師会)のシェルターケアガイドライン(2022)によると、里親においてもシェルターと同等かそれ以上の飼養施設が求められます。幼齢子猫がシェルターに収容された(もしくはされようとした)場合、待機リストから選ばれた里親にその猫を預け、基本的に8週齢まで里親のもとで育てます。8週齢に達した子猫はシェルターに戻され、避妊去勢手術ののち譲渡されます。
対して日本の「ミルクボランティア」は、最も手間がかかる離乳前の子猫を世話してもらうため、各自治体が依頼しているボランティアです。その運用は各自治体によって異なりますが、子猫が離乳した時点で自治体に戻されることが多いようです。
ミルクボランティアの注意点
ウチの自治体の地方議会で「子猫の殺処分を減らすために、動物愛護センターで野良猫の避妊去勢手術ができないか」と質問した議員がいましたが、当局はその質問にまともに答えず「子猫の殺処分を減らすために、ミルクボランティア制度を創設します」と答弁しました。そういう考え方がいちばん困るのです。ミルクボランティアに任せればよいからといって、野良猫にどんどん子猫を産ませてもよいというものではありません。あくまでも野良猫の個体数や繁殖数を減らしていくことが重要で、ミルクボランティアは対症療法であるという認識が重要です。