社会資本としての「スペイクリニック」 その1

前回までの連載で、犬や猫の殺処分数を減らすにはまず収容数を減らすことが重要であると述べてきました。そのためにはまず繁殖制限が重要で、利用しやすく低廉な避妊去勢手術サービス(米国でいうところの「避妊去勢プログラム」)が求められていることを見てきました。ここからは、このサービスをどう提供するか?という問いについて考えてみたいと思います。

 

「スペイクリニック」の類型

米国のシェルターメディスンの教科書 “Shelter Medicine for Veterinarians and Staff, Second Edition”(2013)によると、いわゆる「避妊去勢プログラム」の実施形態は「アニマルシェルターの手術室」「MASH(仮設手術室における出張手術)」「移動式クリニック」「(固定式の)スペイクリニック」「一般の動物病院における避妊去勢手術への助成」の5つにざっくりと分類されます。これは米国の状況ですが、日本においてもおおむねこのような形で「避妊去勢プログラム」が提供されています。もちろん必ずこの中の1つのみに該当するというものではなく、例えば固定式のスペイクリニックを運営しながらMASHタイプの出張手術を行う獣医師も珍しくはありません。それぞれがどういうものか、ざっと見ていきましょう。

 

アニマルシェルターの手術室

主に譲渡前避妊去勢手術や負傷動物の処置に用いられる、シェルター併設の手術室の空き時間を用いて、地域の動物の避妊去勢手術サービスを提供する形態です。

 

MASH(Mobile Animal Surgical Hospitals)

仮設の手術室に必要な機器や機材を持ち込み、出張手術を行うサービスです。

 

移動式クリニック(MSNC)

手術室を備えた大型車両やトレーラーなどで出張手術を行うサービスです。

 

固定式のスペイクリニック

避妊去勢手術に特化した「スペイクリニック」と呼ばれる動物病院のことです。

 

手術料金の助成

一般の動物病院で実施される避妊去勢手術の料金を、寄付金や公費で助成するという考え方です。

 

それぞれにはメリットとデメリットがありますので、地域の実情や実施団体の予算規模などにより使い分けられます。

 

獣医師会との関係

スペイクリニックに関しては日本においても米国と同様と申し上げましたが、獣医師と獣医師会との関係が米国と日本とでは異なることに注意が必要です。米国の獣医師はその州の獣医師会に所属していますので、獣医師会員同士で穏便に「すみわけ」が行われていますが、日本獣医師会は任意加入なので、会員獣医師と非会員獣医師、会員同士であっても開業獣医師と非開業獣医師との関係が少しややこしくなる場合があります(ちなみに私は会員です)。