利用しやすく低廉な、犬猫の避妊去勢手術サービス(米国でいうところの「避妊去勢プログラム」)を提供するためのいわゆる「スペイクリニック」について考えています。
アニマルシェルターの手術室
アニマルシェルターが動物を譲渡する前に、避妊去勢手術を実施しておくことが望ましいですが、シェルター内に手術室を設けそこで避妊去勢手術を実施することが理想的です。そしてその手術室の空き時間に地域の動物の避妊去勢手術を行うことは、シェルターに入る動物を減らすという点において理にかなっています。公営・民営を問わず、米国の一定規模のシェルターには手術室が設置されていて、獣医師を雇用、もしくは獣医師と契約しています。
「動物愛護管理センター」で手術は無理?
日本にもクリニック併設の民営シェルターがありますが、手術室を備えたシェルターといえば各自治体が運営している「動物愛護管理センター」が一般的なのではないでしょうか。しかし譲渡動物ならいざ知らず、地域のペットの避妊去勢手術サービスを自治体が実施するには「民業圧迫」と「受益者負担の原則」という大きな壁があります。前者は地元獣医師会との関係なども絡んできますが、ここでは深く触れないことにします。後者は一部自治体が避妊去勢手術を実施しないための口実として一般的です。つまりペットの繁殖制限は所有者の責務であるから、その費用は所有者が負担すべきで公費を投じるべきではないというわけです。私も基本的にその考え方に賛成ですが、例えば生活困窮者が拾った猫を増やしてしまったといった、行政による介入が必要な場合に飼い主に代わって避妊去勢手術を実施するという対応も必要だと考えています。多くの自治体は自ら譲渡する動物の避妊去勢手術を行なっていますし(岡山県のように早期避妊去勢手術を行なっている自治体すらあります)、自治会や市民団体などからの依頼に基づく「地域猫」の手術を行なっている自治体もあります。残念ながらウチのように、手術室が完全に遊んでいるような自治体があることも事実です。私はスペイクリニックは社会資本として公費で運営すべきという考えを持っていますが、現状ではなかなか厳しいものがあります。どちらかといえば民営シェルターに併設されたクリニックの方が融通が利きますので、そういったクリニックへの公的補助という考え方もあってよいかもしれません。
シェルターの手術室のデメリット
シェルターで避妊去勢手術を行うことのデメリットとして、シェルターが必ずしも交通至便な場所に立地していないことがあげられます。特に手術室を有するような大規模シェルターはその傾向が強いです。場合によっては、送迎サービスなども必要になるかもしれません。また感染症を防止するため、手術のために預かった動物はシェルターの収容動物と一緒にしてはなりません。一時収容場所を別に設けるとともに、受付や待合所も専用にする必要があります。