利用しやすく低廉な、犬猫の避妊去勢手術サービス(米国でいうところの「避妊去勢プログラム」)を提供するためのいわゆる「スペイクリニック」について考えています。
MASH(Mobile Animal Surgical Hospitals)
仮設の手術室で出張手術を行う形態を「MASHタイプのクリニック」といいます。あらかじめ手配していた手術会場に必要な機器や機材一式を持ち込み、そこで一斉手術を行います。
出張手術を行う場所
MASHでは必要なものは全て持ち込みますから、会場は「箱」があればOKです。具体的には事務所や倉庫などの私有地や、公民館や集会所などの公共施設など、さまざまな場所が使用可能です(使っていない選挙事務所を借りているケースもあります)。ただしどのような場所でもよいというわけではなく、少なくとも水道と電気、そして空調が必要です。また日本では獣医療法の規定により「手術を行う施設は、その内壁及び床が耐水性のもので覆われたものであることその他の清潔を保つことができる構造であること。」とされていますから、床や壁をビニールシートで覆う必要があるかもしれません。なおMASH会場も「診療施設」に該当しますから、管轄の家畜保健衛生所への届出が必要です。
現地スタッフが必要
比較的大規模な動物保護団体が、機材とともに必要な人員を現地に送り込む「自己完結型」のMASHもありますが、多くの場合、1~数名の医療スタッフが現地入りすることになります。その際には、事前準備や手術受付などに従事する現地スタッフが必要です。多くの場合、MASHは地元の動物保護団体からの要請に基づき実施されますから、その団体のスタッフが現地スタッフとして動くことになります。
MASHのメリット
MASHは初期費用が少なく、参入障壁が比較的低いのが最大のメリットです。また機動力が極めて高いのも特徴です。また地元の動物保護団体と協働することにより、人的ネットワークを拡げることができます。
MASHのデメリット
MASHは出張手術ですので、術後のフォローに難があります。地元の動物病院と連携できればよいですが、そうでない場合は、クライアントが何らかの形で執刀医と連絡が取れるような体制が必要です。またMASHは自動車で機材一式を輸送するため、度重なる移動による振動で機器が消耗するおそれがあります。
基地が必要
MASHには機器・機材の保管や滅菌のための基地が必要です。なお出張手術の麻酔にケタミンを用いる場合、執刀医がその基地で「麻薬施用者免許」を取得する必要があります。その際には基地に麻薬保管用の金庫を備える必要がありますが、施用者免許さえ持っていれば、出張のための持ち出しはOK(宿泊を伴う出張もOK)です。