社会資本としての「スペイクリニック」 その6

利用しやすく低廉な、犬猫の避妊去勢手術サービス(米国でいうところの「避妊去勢プログラム」)を提供するためのいわゆる「スペイクリニック」について考えています。

 

一般の動物病院への助成

いわゆる「スペイクリニック」を開設するのではなく、一般の動物病院で実施される避妊去勢手術の料金を、寄付金や公費で助成するという考え方もあります。

 

助成のメリット

助成の最大のメリットは既存の施設が活かせるため初期費用が不要という点ですが、飼い主にとっても2つの大きなメリットがあります。ひとつは飼い主が近くの動物病院を選んで手術を依頼することができる点です。もうひとつは、かかりつけ医をつくるきっかけになるという点です。動物病院はペットの病気やけがの際にのみ訪れる場所ではなく、ペットの定期健康診断や予防医療、飼い方相談など、何かとお世話になる場所です。また獣医師にとっても、地域の実情を肌で知るきっかけになります。

 

助成のデメリット

 

高料金

一般的には助成を考慮したとしても、総じて手術料金はスペイクリニックよりも高めにはなります。しかしそれば一般の動物病院が「ぼったくって」いるわけではなく、正当な理由があります。一般の動物病院は避妊去勢手術だけではなく、さまざまな処置に対応します。そのため診断機器や検査機器など、ひととおりの医療機器が必要です。また手術台や執刀医の数にもよりますが、1日に手術することができる頭数も限られています。対して避妊去勢手術に特化したスペイクリニックは最小限の医療機器しか備えていませんし、様々な工夫により短時間で多数の手術を可能にしていますので、安全性を確保したうえで低料金が可能となるわけです。

なお一般の動物病院でも、TNRや保護動物などの場合は特別料金を設定していることがあります。また休診日にスペイクリニックを行ったり、MASHなどの出張手術を行うといったケースもあります。これらの事業は獣医師がボランティアで行っていることが多く、スペイクリニックと同水準の料金で実施されています。

 

一斉手術などへの対応

一般の動物病院は一度にたくさんの手術をするように設計されていないことが多いため、一斉TNRなどへの対応が難しいことがあります。また他の診療や手術予約との兼ね合いから、急な予定変更に対応できないこともあります。

 

管理上の問題

当然ですが、一般の動物病院は管理上の理由で出自不明の動物の持ち込みを快く思わないことがあります。