社会資本としての「スペイクリニック」 その7

利用しやすく低廉な、犬猫の避妊去勢手術サービス(米国でいうところの「避妊去勢プログラム」)を提供するためのいわゆる「スペイクリニック」について考えています。

 

さまざまな形態を組み合わせる

ここまでスペイクリニックの5形態、つまり「アニマルシェルターの手術室」「MASH(出張手術)」「MSNC(移動手術室)」「固定式のスペイクリニック」「一般動物病院の手術への助成」について見てきましたが、もちろんこれらは完全に分類されるものではなく、例えば固定式のスペイクリニックを運営しながらMASHタイプの出張手術も行う獣医師もいますし、アニマルシェルターがMSNCを保有しているなど、さまざまなパターンがあります。また地域の事情により、提供できるサービスの種類も変わってきます。どのような形態であっても、安全で利用しやすい避妊去勢サービスが提供できればそれでいいわけです。

 

なぜスペイクリニックは「社会資本」なのか

私は「スペイクリニックは重要な社会資本なので、公費で運営すべき」と何度も書いてきました。その意味について、最後に触れておきましょう。

例えば自治体に「野良猫にエサをやっている人がいて、その猫が繁殖して困っている」という相談が周辺住民から来たとします。特に地方ではよくある話です。自治体の対応はおそらくこうでしょう。

 

・エサやり者に対して、エサをやらないよう指導する

・野良猫が繁殖しないよう、避妊去勢手術を実施するよう指導する

 

といったところでしょうか。もちろんエサやり者は聞く耳持たないか、暖簾に腕押しです。しかし相談者に「指導しましたから、しばらく様子を見てください」と告げておけば、しばらくの間時間稼ぎができます。再度相談があればまた指導して… の繰り返しが延々と続きます。公務員は人事異動がありますから、数年我慢すればサヨナラです。こんなことをしていては、野良猫は繁殖し放題ですし、周辺住民の不満も収まりませんし、その都度対応に人役を割かれるため人件費(つまり税金)の無駄遣いにもなります。つまり「誰得」の世界に陥るわけです。もし次のような対応ができたら、どうなるでしょうか。

 

・エサやり者に避妊去勢手術の重要性を説明し、スペイクリニックで手術を実施する

・エサやり者に適切な給餌方法を指導する

・しばらく野良猫が周辺に留まるが、避妊去勢手術済みであることを住民に理解してもらう

 

1回で対応が終わりますね(笑)。しかしそのためには、低廉で機動性が高いスペイクリニックの存在が不可欠です。民間のスペイクリニックが地元にあればそこにつなぐことになりますが、自治体職員が動物愛護管理センターの手術室で手術を行うことができれば、さらに選択肢が広がります。これが「スペイクリニックは社会資本」という意味なのです。