飼い主不明の子猫が保護された場合、シェルターに収容すると感染症罹患のリスクがあるため、預かりボランティア(foster)に預けることが推奨されています。しかし子猫の「重要な社会化期」(critical socialisation period)とされる2~7週齢を預かりボランティアの元で過ごすことによる、子猫の行動や健康に与える影響についてはほとんどわかっていません。そこでCampbellら(2024)の“Impact of early socialisation in foster care on kitten behaviour”(預かりボランティアによる早期社会化が子猫の行動に与える影響)(https://doi.org/10.1016/j.applanim.2024.106306)から、幼齢子猫の早期社会化について見ていきましょう。
幼齢子猫を預かりボランティアに預けることの評価
幼齢子猫を預かりボランティアに預けることを評価する際には、2つの視点が考えられます。それは「幼齢子猫を母猫から引き離すこと」と「幼齢子猫を預かりボランティアが育てること」についての評価です。
幼齢子猫を母猫から引き離すことについて
幼齢子猫が母猫と一緒に保護されることもありますが、多くの場合、1~数頭の幼齢子猫が母猫から引き離されて保護されます。
幼齢子猫を母猫から引き離すリスク
一般的に幼齢子猫を早期に母猫から引き離すことは、特に行動上の成長に悪影響を与えるといわれています。Aholaら(2017)※1は、子猫を8週齢未満で母猫から引き離すと、成猫になってからの攻撃性が高まるリスクが高まったと報告しています。Lowellら(2020)※2は、母猫から早期に引き離された子猫はストレスが増加し、それがストレス反応の長期的な変化に寄与すると報告しています。ストレスの増加は病気のリスクを増す重要な要素です。またMartínez-Byerら(2023)※3は、離乳時に異なる行動反応を示すと指摘しています。また預かりボランティアによる保護期間の長さ(一般的に幼齢子猫は、避妊去勢手術が可能になる8週齢になるとシェルターに戻される)によってもリスクは異なるといわれています。
「シングルトン」のリスク
同腹仔なしで1頭だけで人間の手によって育てられた子猫(シングルトン:singleton)は、同腹仔と一緒に育った子猫よりも健康状態や行動の成長が悪いと一般に言われていますが、O'Hanleyら(2021)※4によると、人工乳で育てられた子猫、シングルトン、早期のリホーム(譲渡または預かりボランティア)の子猫の間に、成猫まで育った後の攻撃性に差はみられなかったと報告しています。またMartínez-Byerら(2023)※3は、同腹仔と一緒に育った子猫とシングルトンとの間に、離乳時の行動反応に違いは見られなかったと報告しています。
※1 Ahola et al., 2017 M.K. Ahola, K. Vapalahti, H. Lohi
Early weaning increases aggression and stereotypic behaviour in cats
Sci. Rep., 7 (1) (2017), pp. 10412-10419, 10.1038/s41598-017-11173-5
※2 Lowell et al., 2020 K.J. Lowell, M.M. Delgado, S.L. Mederos, M.J. Bain
The effect of premature maternal separation on distress vocalizations and activity in kittens (Felis catus) during a brief nest separation
Appl. Anim. Behav. Sci., 232 (2020), Article 105130, 10.1016/j.applanim.2020.105130
※3 Martínez-Byer et al., 2023 S. Martínez-Byer, R. Hudson, O. Bánszegi, P. Szenczi
Effects of early social separation on the behaviour of kittens of the domestic cat
Appl. Anim. Behav. Sci., 259 (2023), Article 105849
※4 O’Hanley et al., 2021 K.A. O’Hanley, D.L. Pearl, L. Niel
Risk factors for aggression in adult cats that were fostered through a shelter program as kittens
Appl. Anim. Behav. Sci., 236 (2021), Article 105251, 10.1016/j.applanim.2021.105251