預かりボランティアによる幼齢子猫の社会化 その14

Campbellら(2024)の“Impact of early socialisation in foster care on kitten behaviour”(預かりボランティアによる早期社会化が子猫の行動に与える影響)(https://doi.org/10.1016/j.applanim.2024.106306)から、幼齢子猫の早期社会化について見ています。

 

考察<続き>

 

皮膚糸状菌症の治療

預かりボランティア宅で皮膚糸状菌症の治療を受けた子猫は、「新しい物」に対して「好ましくない」反応を示す傾向がありました。ここで行われた皮膚糸状菌症の治療は、抗真菌薬のペーストを注射器で口内に注入することと、薬浴させることにより行われました。また皮膚糸状菌症の治療は数日で終わるものではなく、少なくとも数週間を要します。ここで用いられた抗真菌薬の種類は不明ですが、論文では「口に合わない(unpalatable)」と表現されているので、経口投与そのものが子猫にとって苦痛であったと推測されます。「まずい」薬の投与と「薬浴」を長期間続けられた子猫は、「新しい物」と「不快な体験」を結び付け、学習したものと推測されます。つまり、世話人が子猫の不快感を低減させる手法を身に付けることや、治療後にごほうびを与えるなどの手法で正の強化を行うことが、子猫の適応や行動の面で有効かもしれません。また預かりボランティア宅においては他の猫への感染リスクが少ないため、StuntebeckとMoriello(2020)※の報告を参考に、治療期間を短縮することも可能かもしれないとされています。

 

補足:StuntebeckとMoriello(2020)の報告とは

皮膚糸状菌症の治療の際には、培養検査を週1回実施するのが一般的です。そして局所治療と全身治療を併用している場合、2週連続で培養検査が陰性(FC:negative fungal culture)になると「治癒した」とみなされます。これは患部の見た目の改善と区別するために、「真菌学的治癒(MC:indicative of mycological cure)」)と呼ばれています。StuntebeckとMoriello(2020)は、皮膚糸状菌症に感染した371頭の猫について調査を行い、335頭 (90.3%)の猫が初回のFCの翌週の検査でもFCとされ、初回FCの時点でMCの状態にあったと推測されるとしています。それらの猫はいずれも見た目は健康で、237頭は局部に病変を認め、残り98頭は病変を認めないか、治癒の跡がありました。残り1割の猫は初回FCの翌週の検査で陽性判定となりました。そのうち19頭は局部に病変がありましたが見た目は健康で、翌週の検査でFCが確認され、採材ミスによる擬陽性が疑われました。残り17頭は局部の病変に加え、医学的問題を抱えていて、いわゆる「難治性」の症例でした。このことから、少なくとも猫の見た目が健康であれば、1回のFCをもってMCと判断してもよいかもしれないと結論付けています。もちろん局所治療と全身治療、そして感染予防対策が適切に実施されていることが前提です。

 

※Stuntebeck and Moriello, 2020 R.L. Stuntebeck, K.A. Moriello

One vs two negative fungal cultures to confirm mycological cure in shelter cats treated for Microsporum canis dermatophytosis: a retrospective study

J. Feline Med. Surg., 22 (6) (2020), pp. 598-601, 10.1177/1098612X19858791