飼い主がペットを飼い続けることができるためのサポート手法のひとつとして注目されている「治療スペクトラム(Spectrum of Care)」について、ASPCA(米国動物虐待防止協会)ののウェブ記事“A Spectrum of Care is the Antidote to One Dog’s Mysterious Illness”(https://www.aspcapro.org/resource/spectrum-care-antidote-one-dogs-mysterious-illness)に掲載されている、スタッフのコメントから見ています。
「正直さと透明性」
「治療スペクトラム」の考え方においては、「一般的な」治療を画一的に提供するのではなく、さまざまな選択肢の中から治療法を決定します。そのためにはクライアントとの生産的な関係を維持することが必要で、「正直さ(honesty)」と「透明性(transparency)が重要であると、ASPCA動物病院研修ディレクターのDr. Anna Whiteheadはいいます。
“If a client asks what I would do if it were my pet, I answer truthfully and tell them why that decision is best for me,”
「クライアントから、自分のペットだったらどうするかと聞かれたら、私は正直に答え、なぜその決断が自分にとって最善なのかを説明します」
“But what’s best for me may not be what’s best for them.”
「しかし、私にとって最善のことが、クライアントにとって最善であるとは限りません。」
Cindyの症例
この記事では、実際の症例について触れられています。3歳の雑種犬Cindyは、長期の旅行から帰ってすぐに食欲がなくなり、嘔吐し始めました。飼い主は無職の女性で、高額な医療費を支払えないということで、ASPCA動物病院を受診しました。
Cindyは診察中も元気で注意力も十分で、基本的な血液検査とレントゲン検査では異常は見られませんでした。しかし一般的に、3日間食べずに嘔吐している犬は点滴のための入院が検討されます。しかしこれでは飼い主の金銭的負担が大幅に増えてしまいます。Cindyの状態は安定していたため、制吐剤と補液の注射ののちいったん自宅に返し、状態が改善しない場合は再受診のうえ必要であれば入院の可能性もあると飼い主に告げました。飼い主はこれに同意し、帰宅の際には駆虫薬と食欲増進剤が処方されました。Cindyは数日後に食欲が戻り、元気に吠えるようになったといいます。
仮に一般的な動物病院を受診していたら、おそらく自宅で様子を見るという選択肢は示されず、点滴のための入院という「一般的」で「無難な」処置が選択されていたでしょう。そして近くにASPCA動物病院のような病院がなければ、飼い主はペットを獣医療にかけることを躊躇したかもしれません。ペットが普遍的かつ公平に獣医療を受けられることをAccess to veterinary care (AVC) といいますが、ASPCAはAVCを担保するために「治療スペクトラム」の考え方を実践しているのです。