「先進的な」単一の治療法にこだわることなく、経済的事情など飼い主の要望に応じた獣医療を提供することにより、飼い主の負担を軽減し、飼い主がペットを飼い続けることをサポートしようとする考え方である「治療スペクトラム(Spectrum of Care:SoC)」について、Brown(2021)らの“Spectrum of care: More than treatment options.”※1を参考に見ています。
SoCの定義
Stullら(2018)は、SoCについてこう定義しています※2。
“veterinarians have a wide spectrum of diagnostic and treatment options they can provide for their patients,”
「獣医師は、患者に提供できる診断および治療の幅広い選択肢を有している」
ranging “from technologically advanced and expensive interventions to less advanced and less costly options.”
その範囲は「技術的に高度で高価な介入から、それほど高度ではなく費用もかからない選択肢まで多岐にわたる」。
“Providing a continuum of acceptable care that considers available evidence-based medicine while remaining responsive to client expectations and financial limitations”
「利用可能なエビデンスに基づく医療を考慮し、クライアントの期待と経済的制約に応えながら、許容できる治療の連続体を提供する」
SoCの2つの「肝」
簡単に言えば、SoCとは獣医師がペットの治療プランを複数提示し、飼い主(クライアント)とすり合わせを行ったうえで最適な治療法を決定するということです。しかしそこには2つの大きな問題があります。
飼い主の判断
獣医師がペットの治療法を複数提示したところで、飼い主がその内容を理解できなければ治療法を選択することはできません。獣医師がそれぞれの選択肢について、利点や欠点を自信を持って飼い主に伝え、理解していただくことが重要です。
獣医師の言いなりになりがち
Sidanaら(2016)は人医療域で患者が治療法を選択する際に、医師の推奨が最も大きな影響を与える可能性があると指摘しています※3。同様に獣医療域でも、ペットの治療法について飼い主が選択する際には、獣医師の推奨が大きな影響を与えることが予想されます。したがって、どのような治療の選択肢が示されるかということと同じくらい、治療の選択肢がどのように示されるかが重要になってきます。
※1 Brown, C. R., Garrett, L. D., Gilles, W. K., Houlihan, K. E., McCobb, E., Pailler, S., Putnam, H., Scarlett, J. L., Treglia, L., Watson, B., & Wietsma, H. T. (2021). Spectrum of care: More than treatment options. Journal of the American Veterinary Medical Association, 259(7), 712-717. https://doi.org/10.2460/javma.259.7.712
※2 Stull JW, Shelby JA, Bonnett BN, et al. Barriers and next steps to providing a spectrum of effective health care to companion animals. J Am Vet Med Assoc 2018;253:1386–1389.
※3 Sidana A, Hernandez DJ, Feng Z, et al. Treatment decision-making for localized prostate cancer: what younger men choose and why. Physiol Behav 2016;176:139–148.