治療スペクトラム(6) 獣医師による説明

「先進的な」単一の治療法にこだわることなく、経済的事情など飼い主の要望に応じた獣医療を提供することにより、飼い主の負担を軽減し、飼い主がペットを飼い続けることをサポートしようとする考え方である「治療スペクトラム(Spectrum of Care:SoC)」について、Brown(2021)らの“Spectrum of care: More than treatment options.”※1を参考に見ています。

 

獣医師による説明

SoCにおいては獣医師がペットの治療法を複数提示し、飼い主(クライアント)とすり合わせを行ったうえで最適な治療法を決定していきます。その際に獣医師が各治療法について説明すべき事項として、Pantaleon(2019)は次をあげています※2。

 

the advantages, disadvantages, and most likely outcomes for each option; 

利点、欠点、最も可能性が高い結果

 

the possibilities of favorable and unfavorable outcomes; 

好ましい結果および好ましくない結果の可能性

 

the likelihood that additional testing or treatment might be needed; 

追加の検査や治療の可能性

 

the associated costs; 

かかる費用

 

the strength of the supporting evidence

裏付けとなるエビデンスの信憑性

 

治療法の選択

獣医師がペットの治療法を選択する際に「最も徹底的(most intensive)」、「最も高価(most expensive)もしくは「最も先進的(most technologically advanced)」な方法を選択しなければ、飼い主を失望させてしまうと考えがちです。SoCにおいてはそうではなく、飼い主が「期待する効果(expectation)」や「経済的考慮事項(financial considerations)」に最も合致した選択肢を選択できるようにしていく必要があります。Toews(2011)※3によると、多くの病状において、常に最良の結果をもたらす唯一の治療法は存在しないか、もしくはその治療法が最良の結果をもたらすかどうかを判断するための研究やエビデンスが不十分です。しかも「最良」の結果をどう定義するかという問題もあります。例えば生きていてくれればそれでよしとするのか、QOL(生活の質)まで考慮するのかといったことによっても「最良」とされる結果は変わってきます。したがって、どの治療法がそのペットと飼い主にとって本当に最良の選択肢であるかを判断する際には、考慮すべき要因がたくさんあります。

 

※1 Brown, C. R., Garrett, L. D., Gilles, W. K., Houlihan, K. E., McCobb, E., Pailler, S., Putnam, H., Scarlett, J. L., Treglia, L., Watson, B., & Wietsma, H. T. (2021). Spectrum of care: More than treatment options. Journal of the American Veterinary Medical Association, 259(7), 712-717. https://doi.org/10.2460/javma.259.7.712

 

※2 Pantaleon L. Why measuring outcomes is important in health care. J Vet Intern Med 2019;33:356–362.

 

※3 Toews L. The information infrastructure that supports evidence-based veterinary medicine: a comparison with human medicine. J Vet Med Educ 2011;38:123–134.