「先進的な」単一の治療法にこだわることなく、経済的事情など飼い主の要望に応じた獣医療を提供することにより、飼い主の負担を軽減し、飼い主がペットを飼い続けることをサポートしようとする考え方である「治療スペクトラム(Spectrum of Care:SoC)」について、Brown(2021)らの“Spectrum of care: More than treatment options.”※1を参考に見ています。
SoCをどう進めるか
SoCとは単一の治療法にこだわることなく、治療法全体をひとつの「連続体」ととらえ、獣医師がペットの治療法を複数提示したうえで、飼い主とペットにとって「最適」な治療法を決定していく考え方ですが、具体的にどうすればよいのでしょうか。そこにはさまざまな方法があると論文はいいます。論文ではいくつか例示されています。
検査の実施について
通常ペットの状態を把握するためにはさまざまな検査を行いますが、特定の検査が治療計画や予後に影響を与えないと判断された場合、飼い主の希望に応じてその検査を省略するといったことが考えられます。また最初は簡易検査と一般的な処置を行い、その後のペットの反応に応じて追加の検査とより複雑な治療を行うという方法もあります。
SoCに関する研究
論文においては、SoCに関するいくつかの研究が紹介されています。
手術の必要性についての検討
ミネソタ大学のWuchererら(2013)※2は肥満犬の前十字靭帯断裂について、非外科的治療(理学療法や減量指導、薬物療法など)のみを行った群と外科的治療(脛骨高平部骨切術:TPLO)と非外科的治療を併用した群を比較し、その治療成績を調査しました。当然ながら外科的治療と非外科的治療を併用した群の方が、非外科的治療のみの群よりも治療成績が良いという結果が得られました。しかし、非外科的治療のみを受けた犬の多くも四肢機能が改善し、研究開始から1年後にほぼ3分の2の犬が良好な結果を示しました。
入院の必要性についての検討
犬のパルボウイルス感染症は入院治療が標準治療とされていますが、コロラド州立大学のVennら(2017)※3は附属動物病院で犬パルボウイルス感染症の通院治療が可能か否かを検証しました。その結果、治療成績は入院より若干劣るものの、通院治療が合理的な治療の選択肢になりえるとしています。ペンシルバニアSPCAにおいても、この「コロラド方式(Colorado canine parvovirus protocol)」が実施され、Perleyら(2020)※4は飼い主が通院治療を希望したパルボウイルス陽性の犬95頭に通院治療を施したところ、79頭(83%)に治療効果があったと報告しています。
※1 Brown, C. R., Garrett, L. D., Gilles, W. K., Houlihan, K. E., McCobb, E., Pailler, S., Putnam, H., Scarlett, J. L., Treglia, L., Watson, B., & Wietsma, H. T. (2021). Spectrum of care: More than treatment options. Journal of the American Veterinary Medical Association, 259(7), 712-717. https://doi.org/10.2460/javma.259.7.712
※2 Wucherer KL, Conzemius MG, Evans R, et al. Short-term and long-term outcomes for overweight dogs with cranial cruciate ligament rupture treated surgically or nonsurgically. J Am Vet Med Assoc 2013;242:1364–1372.
※3 Venn EC, Preisner K, Boscan PL, et al. Evaluation of an outpatient protocol in the treatment of canine parvoviral enteritis. J Vet Emerg Crit Care (San Antonio) 2017;27:52–65.
※4 Perley K, Burns CC, Maguire C, et al. Retrospective evaluation of outpatient canine parvovirus treatment in a shelter-based low-cost urban clinic. J Vet Emerg Crit Care (San Antonio) 2020;30:202–208.