「先進的な」単一の治療法にこだわることなく、経済的事情など飼い主の要望に応じた獣医療を提供することにより、飼い主の負担を軽減し、飼い主がペットを飼い続けることをサポートしようとする考え方である「治療スペクトラム(Spectrum of Care:SoC)」について、Brown(2021)らの“Spectrum of care: More than treatment options.”※を参考に見ています。
家族の目標
ペットの治療方針を決定する際に「家族の目標(family’s goals)」について聞き取ることにより、家族としてどういう状態が「成功」とみなされるか、またどの選択肢が最もその「成功」に近づくことができるかについて、より正確に判断することができます。具体的には、次のような内容について尋ねていきます。
“what are your biggest concerns about your pet’s condition?”
「ペットの状態について最も心配していることは何ですか?」
“how do you think your pet will tolerate being in the hospital or returning for multiple visits?”
「ペットは入院や複数回の通院にどの程度耐えられると思いますか?」
“what is your ability to come back for recheck examinations?”
「再検査のために来院することは可能ですか?」
“what is your budget for your pet’s care?”
「ペットの治療にかけることができる予算はいくらですか?」
その際には、矢継ぎ早に質問を投げかけるのではなく、情報の処理と次の質問への準備時間を飼い主に与えることが重要です。そのためには内容の理解度を確認したり、追加の質問を挟んだりすることが有効です。
家族の考慮事項
ペットの治療法の決定過程に飼い主が参画することにより、飼い主に「家族にできること」「ペットにとって最善なこと」について考える機会を与え、結果的にペットにとって良い選択につながります。飼い主が考慮すべき事項は次のとおりです。
一般的考慮事項
かかる費用(初期費用および長期費用)、通院のための交通機関、診断や予後などの医学的要因
ペットの個別事項
飼い主が治療の推奨事項に従う能力、治療がペットの生活の質に影響を与える可能性(長期または複数回の入院、集中治療、活動制限など)
飼い主のライフスタイル
飼い主がペットに処置を行うことが物理的(身体的、時間的など)に可能かどうか、再検査のための通院が可能か、自宅でペットに特別なサポートを提供することが可能か
※ Brown, C. R., Garrett, L. D., Gilles, W. K., Houlihan, K. E., McCobb, E., Pailler, S., Putnam, H., Scarlett, J. L., Treglia, L., Watson, B., & Wietsma, H. T. (2021). Spectrum of care: More than treatment options. Journal of the American Veterinary Medical Association, 259(7), 712-717. https://doi.org/10.2460/javma.259.7.712