現行の動愛法の規定では、都道府県等は所有者や所有者が判明しない犬猫を拾得した者から犬猫の引き取りを求められたときは、引き取らなければならないとし、それを拒否できる場合を定めています。令和元年改正(令和2年6月1日施行)で拒否事由が明確化され、特に所有者が判明しない猫の引き取りについて高いハードルを設け、事実上の引き取り拒否規定となっています。しかし義務規定はまだ残っています。
元々環境省は、所有者が判明しない猫は積極的に行政機関が引き取り、飼い主を探すべきというスタンスでした。しかし一部の自治体は、飼い猫が誤って引き取られ殺処分される恐れがある(実際にそのような事例がありました)、また駆除目的で捕獲した猫が持ち込まれる恐れがある等の理由から、所有者が判明しない猫の引き取りには応じませんでした。旧法の時代においては、そういう自治体に対して、義務規定を盾に所有者が判明しない猫の引き取りを強要する人たちがいました。彼らの主張を要約すると「殺処分云々は行政内部の問題であって、市民には関係ない。引き取りが動愛法で義務付けられている以上、引き取らないことは法律違反だ」ということです。そういう人たちの圧力に屈し、所有者が判明しない猫の引き取りに応じる方針に転換した自治体もあります。
令和元年改正により、所有者が判明しない猫の引き取りを求める者は、周辺の生活環境が損なわれている事実を立証しなければならず、都道府県等はそれ以外の場合の引き取りを拒否できることになりました(ただし、本来都道府県等が収容すべき負傷動物が持ち込まれた場合は別です)。しかし義務規定である以上、外猫(野良猫とは限らない)を駆逐したい人たちとのいたちごっこは続くでしょう。
そこで「引き取らなければならない、しかし〇〇の場合は拒否できる」という現行の規定を見直し、「●●の場合にのみ引き取る」と規定し、引き取り事由を明文化することを提唱します。
飼い犬・飼い猫を引き取る理由は「このまま飼い主(又はその相続人)のもとに置くことにより、当該動物の生命や健康に支障をきたす、又は遺棄・虐待のおそれがある場合」「当該動物が人および他の動物に重大な危害を与えるおそれがある場合」しかないはずです(他にあればご教授願います)。
「近所の数人に声をかけたけれど、新しい飼い主が見つからなかった」ことをもって「新しい飼い主を探す努力をした」とみなし、飼い犬や飼い猫を引き取るなど、もってのほかです。それなりの対価を支払えば、新しい飼い主を探す手段はいくらでもあります。動物愛護団体によっては、避妊去勢手術やワクチン接種、血液検査の費用など、譲渡のために必要な経費を支払うことで引き取ってくれるところもあります。その費用すら惜しみ「あの団体はボッタクリ」と吹聴する残念な飼い主もいまだに多いのです。そういう人たちにとって、数千円の手数料で犬猫を引き取ってくれる行政機関は非常に便利な存在です。ほんとうにそれでいいのかというのが私の感想です。
所有者が判明しない猫の引き取りは、負傷猫を除き、原則禁止にすべきです。外猫が原因で周辺の生活環境が損なわれていると客観的に認められる場合は「猫の所有者を探し、指導を行う」「所有者が判明しない場合は、そこに猫が侵入しないための対策を講じる」「地域猫として管理する」プロセスを踏んだ上で(ほとんどはこれで解決するでしょうが)やはりやむを得ないと認められる場合に限り、土地所有者等が都道府県等に引き取りを依頼することができるという規定が望ましいと思います。
鑑札や注射済票が付いていない犬については、狂犬病予防法の規定により抑留されるので、ここでいう「所有者が判明しない犬」とは、厳密にいうと鑑札や注射済票が付いている犬(=迷子の飼い犬)及び狂犬病予防注射の対象外である、90日齢以内の子犬のことです。
動愛法には、所有者が判明しないとして引き取った犬猫の収容期間についての規定がありません。所有者が判明しない(=所有者がいる可能性がある、つまり拾得物)犬猫の収容期間は、少なくとも遺失物法の規定(現行は2週間)に合わせることを明記すべきです。
また、安易な引き取りにつながる「市町村(政令市を除く)による犬猫の引き取り」は廃止すべきです。犬猫の引き取りに利便性は必要ありません。